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melancholia syndrome

第7章 二人きりの夜


"美羽"

先生の口にしたその名前が頭の中をグルグル回る。

勿論その名前に心当たりはないし、クラスメイトにもいない名前。

「美羽……美羽…!」
「!!」

先生は急に掴んだ腕をグッと引き寄せた。

「せ、先生!!」

抱き寄せられた体を引き離そうと先生の体を押そうにも力がこもった腕は私の力では引き離せそうもない。

「先生!しっかりしてください!」

ドクンドクンと脈打つ心臓の音が自分のものなのか先生のものなのかも分からないぐらい私は慌てていた。

どうしていきなりこんな事をするのか、先生が私を誰と間違えているのか。

何も分からない私は何も聞く事が出来ない。

ただ先生の目を覚ます事しか出来ない。

「先生…!」

もう一度強く呼び掛けるとぎゅっと抱き締められていた腕が少しだけ緩んだ気がした。

「?」

そして、私は自分の肩口が濡れているのに気付いた。

「せん…せ…い…?」

異変を感じて呼び掛けるが依然として返事はない。

だけど、その体が震えていた。

「…ごめん。……俺が………美羽の……ごめん」

震える声で何度も何度も謝罪の言葉を口にする。

頬を伝わる涙は冷たく私の肩を濡らす。

「ごめん、ごめん…。俺が…全部悪いんだ…」

先生はふと私の体を離して虚ろな目で私の顔を見つめる。

「俺を…許してくれるか?」

じっと見つめる先生の目に映るのは私じゃない。

「…許します」

分かっているはずなのに、その辛そうな顔を見ていたらそう言わずにはいられなかった。

「本当に?」

不安気なその顔は今までに見た事がないぐらいに頼りない。

「私が全部許すから、だから抱え込まないで…お願いだから、私を…頼って……」

私はそう言って先生の体に腕を回した。

温かい体とは対照的に先生の心は冷え切っている、何故だかそう思いながら。

いつだったか先生は私に頼れと言った。

その言葉に私はどれだけ救われただろうか。

だから今度は私が支えたい。

その心を温めたい。

例え、先生の目に映るのが私じゃなかったとしても。
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