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melancholia syndrome

第5章 大人と子供


「やっぱさ、ちゃんと謝っときたくてさ」

伏し目がちの切れ長の目がゆらりと揺れた。

今まで意識してなかったけど先生のまつ毛は長くて綺麗。

「もう…気にしてないので」

全く、と言えば嘘になるけど私も忘れたかったからそう答えた。

「でも…」

先生はまだ何か言いたげだったが、口を閉じた。

「私…嬉しかったです」
「へ?」

先生は突然の私の言葉にポカンとする。

「あの日、頭を撫でてくれた事。今日こうして一緒にご飯を食べてくれた事」

今までずっと一人だったから…

「他の人にとっては普通でも、私にとっては特別なんです。だから、いいんです。プラマイゼロって事で」

そう言って私が笑うと先生も初めて会った時みたいに困ったように笑った。

色々な事があって、色々な事が分からなかったけど私は先生のこの笑顔は好きだなってそう思った。

「そっか…」

先生はもう一度確かめるように呟くと残りのハンバーガーを食べ始める。

私はまだ全く口を付けていなかったから冷めない内に急いで食べ始めた。

私達がご飯を食べ終わる頃には店内の客足も途絶えていた。

元々お昼の時間帯とは少しずれていたから私達はスムーズに店外に出られた。

「んー…腹一杯になると眠くなるな…」

そう言って先生は眠そうに目をこする。

「でも、すっごく美味しかったです!私ハンバーガー生まれて初めて食べました」
「えっ…ええええええ!?」

先生は私の言葉に絶句する。

「なんて、冗談ですよ」

そう言って私が舌を出すと先生はまたも絶句した。

「君ね…大人をからかうんじゃないの」

そう言って先生は私の額にツンと人差し指を突き刺した。

「ふっ…あはは」
「ふふふっ…」

そして私達はどちらからともなく笑い始めた。

少しずつ変わってきたのは私か、それとも周りなのか。

私の生活は今までと確実に変わっていた。

胸の鼓動を速めるこの気持ちに、私はまだ気付いていなかった。

それでも、確実に私の中は変わっていたのに。

目の前で笑う彼もまた、変わっていたのに…。
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