第2章 パンプキンバイオレンシー
彼女はド派手な魔女だった。魔女というのは推測にすぎないがたぶんそうなのだと思う。オレンジ、紫、白のストライプのサーキュラースカートに黒いコルセットを着用した彼女はチカチカと僕の視神経を刺激する。今日が何の日かが分からない程、世間知らずではない。もうすぐカラフルな瞼の彼女からお馴染みの台詞が聞けるだろう。薄紫に塗られた唇が動いた。
ーーートリックオアトリート
グロスで艶めいた唇の間から歯を覗かせ、シルバーとオレンジで囲われた瞳が三日月型に細められた表情は小悪魔めいて見えた。僕は数秒間考えるふりをした。素直に渡してしまっては面白くない。僕の中の何かが訴えかけるので、素直に従うことにする。
「随分とおめでたいじゃないか。」
「遠回しに一人でパーティ気分に浸ってアホみたいだって言ってる?」
小生意気にソファの肘おきに腰掛けた彼女は一三㎝ヒールのショートブーツを履いた華奢な足をもう片方の足の膝へと重ねた。
「どうだろうね。ところで、もし僕がお菓子を持っていないとしたらどうするつもりなんだい?」
「どうって………」
シェリーは眉を寄せ口ごもった。関係性ができあがっているのだ。僕に心を開くまで時間のかかった彼女は遠慮のボーダーラインも厳しめに定めているように思う。本来の彼女は僕に見せる姿よりも奔放であり気儘でなのある。それは、時折僕に疎外感を感じさせるし、敬意のようなものも感じさせる。ただ確実であることは僕が彼女にとっては意識することの少ない目上の部類であり、その中でもまた特殊な位置付けに存在するということだ。
「どちらにせよ、君は僕に悪戯なんてしないだろう?」
「そうだと思う?」
「そう教え込んでいる筈だよ、身体にね。」
僕はシェリーに鍵束を投げ渡した。
「………嫌な人。」
彼女は受け取った鍵束を見回しながら呟き、再び口を開く。
「まさか、これがお菓子だとかは言わないよね?」
「食べたいって言うのなら止めないよ。」
「……要するに、この中の何処かの部屋に行けってことでしょ。少し期待しちゃうけど。」
溜め息混じりに鍵束をじゃらじゃらとちらつかせる彼女の表情には期待などこれっぽっちも込もっていなかった。