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FFⅨ Hi Betty! (Short)

第1章 浜辺にて酔いにしれる夕暮れ




飛空艇の中を一通り回り、残すところはデッキのみとなった。外へと繋がる鉄の扉に手をかけそっと押せば、探していた人物が手摺に肘を置き、過ぎ行く景色を眺めていた。

「見つからないと思ったら、こんなところにいたんだ。」

私の声に彼は振り返ると、風で靡いて顔にかかる髪を邪魔そうに掻き上げた。

「外の風を浴びたい気分だったんだ。身体は少し冷えるけどね。」
「ふうん。あのね、クジャ。いいもの見つけたの。」

私はずっと手に持っていた緑がかった色のボトルを差し出した。これを彼に見せたくて、船内を走り回っていたのだ。

「シャンパンじゃないか。」
「キッチンの戸棚にあったよ。」
「そういえば、この前貰ったやつをしまった気がするよ。で、飲みたいとか言わないだろうね?」

受け取ったボトルを回し見るクジャの手が止まり、釘を刺すような視線が私に向けられる。

「うんと、その……だめ?」
「ミルクで我慢しといたらどうだい?」
「私、そんなに子供じゃないわ。」

クジャは呆れ半分に首を振り、ちらりと景色に目を遣る。

「飛空艇、停めようか。でも、少しだけだよ。もうすぐ夕陽が沈み始めるのに免じてね。」

彼の背後の太陽は地平線の上で、仄かに空を朱に染めていた。

***

砂浜に停められた飛空艇のデッキには丸いテーブルと椅子が元々設置されている。ほとんど使った試しのないそれらが本来の役目を果たせるということは、私としてもどことなくだが喜ばしい気持ちだ。

「そろそろ冷えたかな。」

クジャは氷水に漬かったボトルのキャップシールを剥き、コルクを押さえながら針金を弛めていく。シャンパンクーラーの中には彼が持ってきたミルクもさりげなく入れられていた。

「シャンパンはコルクが飛ぶかもしれないから、押さえてないといけないんだ。」
「栓抜き、使わないの?」
「そういうものなんだよ。」

クジャはワインが好きらしく、その手のことには詳しい。彼がゆっくりとボトルを回せば、小さく空気の抜ける音を立てて、瓶口が開いた。それをグラスに注いでいくのだが、彼曰く、グラスを傾けるのがコツで、そうすることにより泡が立ちにくくなるらしい。



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