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【ハイキュー!!】行け!烏野高校排球部

第9章 鴉の腹を肥やす



県内において屈指の実力を持ち、去年のベスト4に進出した青葉城西高校。全国への切符を手にするのに必ず障壁となるだろう相手。

そんな相手に、この場において呑気に『頑張れ』などと声をかけるとは。及川にとって違和感に感じられたのだ。まして烏野を応援する立場である彼女が言うなんて​────。




「​─────私は、青城に負けて欲しいなんて思ってません」




不意に口を開いた伊鶴は、そう言い切った。臆すこと無く、迷うこと無く、誤魔化すこと無く。2人の方を真っ直ぐと見据えながら、きっぱりと言い切った。その瞳に見詰められ、2人は思わず息を呑む。


「烏野のみんなに勝ち進んでほしいのはもちろんです。でも、相手に“負けて欲しい”なんて考えるのは間違ってます。同じコートに立つ相手なら、『全力で戦って欲しい。全力で向かって欲しい。全力をぶつけて欲しい』、そう思います。だって、相手から本気を出されるって、最高に嬉しいことですから」



何故なら、相手から本気を出されないという事は ​─────『自分達の実力を出すまでもない相手』と見なされたということ。それはスポーツをする者にとって最大の屈辱だ。



「すみません、全部私の勝手な意見ですけど…。でも、スポーツで1番悲しいのって、自分の実力が上手く発揮出来ないことだと思うんです。自分はもっと出来たのに、もっとやれたのに、どうしてあの時…なんて思いが後から襲って来ること程、辛いことってないですよ」


そう語る伊鶴の目に、一瞬悲哀が宿る。


「だから、私は及川さんと岩泉さん達にも、頑張ってって言いたかったんです。……余計なお世話かもしれないですけど…」



話終わると、伊鶴は段々と羞恥が湧いてきたのか、自信なさげにそう言いながらポリポリと頬を掻く。
突如として投げられた言葉の豪速球に、及川は顔面に一撃食らったくらいの衝撃を受けていた。岩泉も一瞬ポカンとするが、しばらくすると小さく吹き出す。


先程まで 今にも噛み殺されそうな雀のような顔していた相手が、一瞬にして気高い鶴の様に凛とした姿に変わったのだ。
『なるほど。及川が気にかけるわけだ』と、岩泉の中にあった疑問に合点がいく。


そして及川はと言うと、「そっ、かぁ」と間抜けな顔のまま気の無い返事をする。

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