第9章 恋人同士の日常 ~仁王 雅治 編~
藤堂『…分かってました、最初から私のこと……好きじゃないって。』
綺麗な瞳は涙を流すことなく毅然としていて……【違う!!】そう言いたくても、言葉を発することが出来なかった。
そうじゃない……ただ、お前の前ではどうしても格好つけようとして、本音を言えなかっただけ。
【ホレたモノ負け】……とっくの間に、嫌、最初から負けていた。
あんな瞳をさせてしまうなんて……俺の前だけアイツは【弱音】を吐いて……そんなヤツなのに。
仁王『…香、好きじゃよ。』
優しい感触が頬を撫でる。
仁王『……ん?…香?』
香『夢でも見ていたんですか?』
仁王『夢?今の……夢だったのか。』
香『大丈夫ですか?何か、少しうなされていたようでしたけど。』
仁王『そうか……夢だったのか。』
明白に、ホッとした自分がいた。上半身を起こし、彼女を抱き締めた。
香『ま……?どうし…。』
仁王『怖い夢を見ていたぜよ。』
香『怖い夢?』
仁王『手後れになる前で良かった。』
さっきから、意味が理解できないようで考え込んでいるよう。
仁王『情けないのう…。』
藤堂『よく分からないですけど……大丈夫ですよ。私がついてます。頼りないかもしれないですけど…。』
仁王『ありがとな。』
藤堂『あの……もう一回、言ってくれませんか?その……。』
仁王『望むなら何度でも言うぜよ。けど、先に充電させんしゃい。』
キョトンとした瞳が俺を見つめる。後頭部に腕を回しては、繋ぎ止めるための【鎖】を唇に打ち付ける。
真っ赤に頬を染めた香を見ては、ほくそ笑む。
仁王『好きじゃよ、香。離さんぜよ。』
絡めた指先にキスを落としては、もう1つ…【鎖】を繋いだ。
逃げられないように……そして、俺の愛情を伝える為に。
藤堂『大丈夫ですよ。最初から……雅治さんに繋がれていますから。』