第8章 恋人同士の日常 ~伊武 深司 編~
目の前で、私が漬けた【漬け物】をモクモクと口に運ぶ深司くん。
あのぉ……オカズ、他にもあるんだけど?
伊武『何?今、色々と【噛み締めて】いるところなんだけど。』
藤堂『?…噛み締めて?』
どういう意味なんだろ……。不思議に思いながら、変わらずモクモクと食べている深司くんを見ていた。
伊武『香……最近、漬け物の漬け方を研究してるんだろ。』
藤堂『ど、どうし…。』
友達にはしっかり口止めしたはず……。こっそりやって驚かせようと思っていたのに。
伊武『石田が教えてくれた。』
どうやら、たまたま友達と話をしているのを聞いていたらしい。石田君……口が軽いよ。私の計画が…。
妙な倦怠感…。
伊武『それに…。』
藤堂『それに?』
伊武『最近、俺のこと……ほったらかしだっただろ。結構さ、気にしてたんだよな。』
彼がこんな風に、気持ちを言葉にするのは珍しい。
藤堂『気に……してた?』
伊武『するだろ。普通……。』
藤堂『………ごめんね。でも、驚かせたいって思ったし……深司くんを喜ばせたかったんだ。』
伊武『…今回はいい。でも、次は……わぁっ!!』
私は深司くんに抱き付いた。
伊武『全く……お前って、目が離せないよな。』
手のひらが頭を撫でる。
伊武『俺さ…こんなんだから、愛想つかされたとか…マジにヘコんでたのがバカみたいだよな。お前……俺のことばっかり考えてるし。』
藤堂『…深司くんは?』
伊武『マジにヘコんでたって言っただろ。』
藤堂『愛想…尽かした?』
伊武『俺さ……我慢するのって得意じゃないんだよな。だから、あんまり俺から……離れて行くなよ。』
藤堂『…うん。』
伊武『心配しなくても俺……お前しか要らないから。』
いつになく優しい眼差しの視線と合わさる。触れるだけのキスをしては、深司くんから腕を放そうとしたが、咄嗟に抱き寄せられる。
伊武『…俺…香のこと……好きだから。だから……どこにも行くな。』