• テキストサイズ

深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第12章 昇る泡 弾ける想い




「せんせ、俺実は、とは仮で付き合ってたの。」

突然化学準備室にやって来たアキラは、なにも言わず俺の腕を引いて、俺を屋上まで連れて来て…突然そう言い放った。
「…どうしたんだ、急に。」
頭でもぶつけたか?そうふざけて切り返そうとしたが、心の奥に押し込んでいた彼女の名前が出た事と、彼の想像以上に真っ直ぐな瞳に打たれ、俺は押し黙った。
こんな時ですら取り繕うように、口角が上がってしまう事に、俺は情けない大人になったなあと心の中で自虐をする。

「には好きな人が居て、諦めがつくまで俺にしてって。」

アキラは俺の目の前までゆっくりと歩みを進めた。
動揺を、心の焦りをくみ取られぬよう、と俺はポケットの煙草を取り出し、咥えた。

「んで、夏休みの終わりに、はそいつを諦める努力するっつって、俺と正式に付き合う事になった。
けど、あいつのなかで全然その人が消えきってない事もわかってた。」

アキラは俺の隣に並ぶ。
ゆっくりと火をつけ、アキラの横顔を見ると、
先ほどのまっすぐの瞳が嘘だったんじゃないか、ってぐらいに揺れていて。

「留学行くって知って、やっぱり、関係も、リセットしたから。」

俺はふう、と一度息を付き、小さく笑った。

「から…なんだ?なにがいいたいんだ?」

なんて大人げない、けれど、大人な切り替えし。
自分でもこんな姑息なとぼけ方はしたくないと思った、けれど、
教師と生徒の恋愛がどれだけ周りに迷惑をかけるのかという体裁も、
せっかくアキラと付き合うと決めた彼女の意思も、
俺と同じぐらい、彼女の事を強く思うアキラの気持ちも、
俺の中の、彼女への思いが大きくなってしまって、取り返しがつかなくなることへの恐怖も
全てのバランスをうまく保ったままで居られる、唯一の方法だと感じた。
/ 78ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp