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深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第1章 揺れる青髪に、恋



「せんせっ!さようなら!」
「おお、さよーなら。」


一つに緩く束ねられた青紫の髪が揺れる度、女の子は色めき立つ。
挨拶出来ちゃった、なんて嬉しそうに両手で顔を覆う、つま先からてっぺんまで可愛いを纏う女の子。
それをちらと横目で見て、私は音楽のボリュームを上げる。

"生徒と先生の恋愛なんて、馬鹿げてる。"

最初はそう思っていたはずなのに、二年に進級して、自分のクラスの担当教員になった彼に、どんどん惹かれていく自分が怖かった。

「なっさけな…」

小さくそうつぶやいて、かかとを踏みつぶした上履きからナイキのエアフォースワンに履き替える
胸の下程まで伸びた、ワンレングスの黒い髪をかき上げると、お気に入りのシャンプーの香りがして気持ちいい。リュックからスケボーを外し、乱雑に地面に投げる。
がしゃん、と地面とそれがぶつかる音がしてすぐ、右足を掛ける。同じクラスのお堅い風紀委員の姿がないことを確認して、靴箱から校門までを一気に駆け出した。
もうすぐ夏が来る、そう感じさせてくれるこの風が心地よくて、私は前を向く。



(卒業したら、告白してもいいかもなあ。)


寮のベッドで横になっているとき、なんとなくよぎったその感情を、心のどこかで私は小さな決意にしていた。
学生と先生の恋愛なんて、勝算がなさすぎる。
ぼんやりと想像してみても、笑って
『有難う、嬉しいよ。』という返答しか浮かばない。

だから、せめてほんの少しでも可能性があるなら、そっちに掛けたいと思うあたり、やはり私の気持ちは本物で。

「卒業したら、だな~」

素行の余りよろしくない私は、周りの女の子よりも先生に気に掛けてもらっているという自覚があった。もっと放課後見たあの女の子のように可愛らしくなるべきなのかもしれないけれど、今の関係が心地よくて、私はそこに甘えていたのかもしれない。
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