第1章 the first verse
湯気の向こうにぼんやりと浮かぶ白い月。
月が明るすぎて、周りの星は一等星くらいしか見えない。
視線は月を見ているけど、脳裏に映し出されてるのはさっきの部屋の中の二人。
会話を反芻する。
ひかり 「・・・・・うわ。部屋に露天風呂があるの?!」
翔 「そー。」
ひかり 「すごくない?それって。」
部屋の中から、窓の側に見えるその総檜製の湯船を眺める。
翔 「入ってみる?」
声の方を振り向くと、バッグから何か出したり一方で片したりしてる彼がいる。
ひかり 「・・・・・。」
即答できなかった(苦笑)
ほんの少しの躊躇のせい。
急に気恥ずかしい気持ちが押し寄せてきたものだから。
何度も肌を重ね合わせているけれど。
一晩一緒にいたことも何回かあるけれど。
こうやって二人だけで、違う場所で「泊まる」ってことが初めてだからかなぁ。
小さな小さな、どうでもいいような事実(いつもキレイな女優さんとか見てるんだよね、とか、そういう、別に今に始まったワケじゃないコト)がふいに頭を席巻して。
結果、答えに詰まってしまったという。
そうしたら。
翔 「やっぱ恥ずかしいか(笑) じゃ、とりあえず別々に大きい温泉の方に入るとするかー。」
彼が笑いながら、そう言った。
とんでもなく忙しい中、時間取ってくれたのに。
宿だって、その多忙な彼が押さえてくれたのに。
その上、気を遣わせてしまった。
ブクブクブク・・・・・。
自己嫌悪が頭を押さえつけてきて、お湯の中に顔を沈めて。
溜息と一緒に小さな泡が浮き上がって。
一人ごちる。
あーあ。
バカだな、私ってば。