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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)




「リエーフ、 今度はあなたのことを教えて。 普段は何をしているの?」

「バレーボール」

「バレーボール」
聞いたことがある、 となまえは頷く。 「ボールを地面に落とさないようにする、 アレね?」

「そう、 アレ」


ドッジボールだって、 野球だってテニスだって、 ボールを地面に落とさないようにするものだけれど、 相手と自分が同じものを共有している手応えがした。 通じ合ってる感覚に嬉しくなる。


「で、 俺は音駒のエース」

「上手いの?」

「上手くなります!」

「きっとなれるでしょうね」予言するようになまえは同意した。 そこでふと彼女は口をつぐんだ。 どうしたのだろうと思っていたら、 電車がやってくる音が耳に届いた。 間を空けず、 蘇我行きを告げるアナウンスが鳴る。


「私の乗る電車だわ」

それは会話の終了を意味していた。 まだ話したりない気持ちがあっても、 引き止めるほどの権利は無い。

「そっか、 お別れだね。 俺は逆方向」


ホームに侵入した電車が惜しむようにスピードを落としてくる。 じゃあね、 ありがとう、 となまえは颯爽と立ち上がり、 青いキャリーケースに手を伸ばした。 その探るような手つきを見て、 リエーフは初めて気がついた。 彼女とケースの間に隠れるようにして、 白い杖が置かれていた。


「さようなら、 リエーフ」
慣れた手つきで杖を伸ばしながら、 女の子が失敗をごまかすときにする照れ笑いをサングラス越しになまえが見せる。「くれぐれも、 詐欺には気をつけて」


そして彼女は白い杖で地面を叩いて、 電車へまっすぐ歩いていった。 それはとても自然な動作で、 まるで軽快なリズムを取っているかのようで、

地面を鳴らしながら歩き、 車両に杖がぶつかる音の変化に反応して、 彼女は荷物と一緒に電車に乗りこんだ。

ドア付近に立つ人たちが、 手すりを掴んだなまえに視線を向けて、 一斉にスペースを空けるように一歩動く。 優先席から背の低い婦人がさっと立ち上がり、 なまえに声をかける。 相手に耳を傾けるためになまえが顔の角度を変える。 一瞬反射した小さなピアスの光を残して、 ドアが閉まった。


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