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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)




彼女は、 線路の方を向いたまま頷いた。 いつもソワソワしているリエーフから見て、 彼女の動作は落ち着いていてとてもシンプルだ。

魔法使い、 みたいだ。 実はずっと感じてた。 外国よりも、 ずっと遠いところから来てくれたような気がする。 今年の夏の終わりと一緒に、 彼女がすうっと夕日に消えるところが想像できた。

無意識のうちに、 声を潜める。 「お姉さん、 普段何してる人ですか?」

「何してるように見える?」

「…………モデル」

「目立つのは好きじゃないな」

「じゃあやっぱ、 探偵とかスパイ?」

「もし私が本当にスパイだったら、 自分はスパイですなんて誰かに言ったりしない」

「日本の生活は好き?」

「好きよ。 生きていくのは大変だけれど」


しばらくの間、 ふたりで色々な話をした。 彼女は親しみやすく聡明であったが、 常識的な部分が欠けているところがあった。

野良猫を追いかけて部活に遅刻した話をリエーフがすると、「猫というのは、 動きが早いの?どのくらい?」と興味深そうに尋ねてもくる。

「逃げ足が早い。 台風の時の風くらい」「よく捕まえられたね」「俺にとっては楽勝だから!」


相手が一風変わった人間であることはリエーフも早くに気付いていた。 けれど、 悪い人ではなさそうだという気持ちが、 会話を続けさせていた。

「そうだ、 お姉さんの名前、 教えて。 あー、 この世界で使ってる名前」

「なまえ。 あなたは?」

「リエーフ」

「リエーフ?変わった名前かしら」

「ハーフなんだ、 俺。 ロシア人と日本人のハーフ」
お決まりの自己紹介をして、 いつもの癖で言葉を続ける。 「でもロシア語はしゃべれない」

なまえは、 へぇ、 とぼんやりとした相づちを打った。 頭上から伸びる屋根の向こうの青空の中に、 何かを探しているかのように仰いでいる。


「珍しくないの?俺のこと」

「よくわからないわ、 どうしてそんなこと聞くの?」

「俺、 よく知らない人からジロジロ見られるんだ。 小さい頃からだから、 もう慣れっこだけど」

「そう、 なの?」

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