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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第33章 屋上の烏、恋は曲者(月島蛍)



「東峰先輩、体温高いんだろうな……手のひら、おっきいんだろうなぁ…………」



こんなことなら、なまえの恋心なんて気付かないフリをしとけばよかったと後悔している。弱味を握れて色々楽しめそうだと思ったのに、あろうことか開き直って妄想を垂れ流してくるなんて。


「東峰先輩の手を握ってね、こう、私のシャツのボタンに持ってってあげたいの、もーどうしようね月島」となまえが真剣な目で僕を見上げる。「『ごめん』って内ももにキスされたらどうしよう」


そんな質問されてる僕のほうがどうしようだよ。


うぅ、となまえが項垂れる。マスクの中から、好きすぎて辛い、と微かに聞こえた。

「好き、切ない、片想いに効く薬が欲しい、っていうかめっちゃ寒い、月島ぁ」

「ヤメテ」


すがってくる手を呆れながら振り払うのにももう慣れた。恋する人間ってこんなにどうしようもないなんて知らなかったよ。楽しそうにつらつら喋ってると思ったら苦しんでいる。テンションの上げ下げがやたら激しい。躁鬱患者じゃないんだからさ。



僕となまえの出会いはベビーカー時代にまで遡る。家にあるアルバムをめくるとその事実を証明する写真がどんどん出てくる。親戚でも、家が近所だったわけでもなくて、単に母親同士の仲が良いから、子どもが同い年だったから。そういう理由で、僕たちの縁は作為的に紐付けられた。


覚えている一番古い記憶は、小学校に上がる直前。なまえは僕のクレヨンを借りて絵を描いていて、夢中になっていたのか、力加減がわからなかったのか、緑色のクレヨンを折ってしまった。今でもはっきり覚えている。彼女は双葉を描いていたんだ。

折れたクレヨンを前に、まだ小さかった僕は大泣きした。緑は一番気に入っていた色だったからだ、恐竜の身体は緑だから。ひたすら泣いて、謝られても泣いていた。


『もういい!』

憤慨したなまえは部屋を出ていき、戻ってきた頃には裁縫用の大きなハサミを手に持っていた。そして僕の見ている前で、彼女は手持ちのバービー人形の首を切断し始めた。

あれは多分、これでおあいこだろ、という意味だったんだと思う。


それが僕の中のなまえにまつわる最初の記憶だ。なんだコイツ、と思った最初のシーンでもあるし、ドン引きする頻度で言えば、今でもあまり変わっていない。
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