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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第31章 君の恋路に立たされている(松川一静)





松川は、 下の名前を一静と言う。

カズシゲではなく、 イッセイと読むのだと初めて知ったのは、 クラス替えで3年1組の名簿を見たときだった。 つまり、 本人には申し訳ないが、 つい最近のことになる。


けれど彼の存在自体は、 入学した当初から目を引かれていた。 理由はもちろん、 身長が学年でずば抜けて高かったから。


これはどうしようも無いことなのだけど、 私は持たざる者だから、 背の高い人を見かけると、 つい、 「おっ」と思ってしまうところがある。


嫉妬というか、 憧れというか、 違う人種を見る気分と言いますか、

例えるなら、 同い年のゴルフプレーヤーとか、 フィギュアスケーター選手の活躍をテレビで知った時みたいな「へぇ、 すごいや」という気持ちで見ている。 ギネスブックを読んでも同じ感想を持つ。 「へぇ、 すごいや。 そんな人間もいるのかぁ」である。


だから、 私は随分前から、 松川の後頭部を校内で見かける度に「今日は良いことありますように」と、 勝手にご利益をもらっていたように思う。 更に言うと「あの人は動物に例えるなら、 虎だな」と一方的な分析までしていた。


虎っぽいと思ったのは、 騒がしい男子の群れの中でも、 彼だけはいつも泰然としている、 ような印象だったからだ。

友人といる時も、 ひとりでいる時も、 自分のペースや縄張りを保つかのように振舞っていて、

こちらに向かってゆっくり歩いて来られると、 背も高いし、 無表情だし、 何より迫力があって、 怖かった。



実のところ、 クラスメイトになった今でもちょっぴり怖い。

特に、 黙って隣に立たれたときや、 後ろから気配を感じる時なんかがそうだ。

小心者の私は気が気ではない。 命の危機さえ感じる。 もしや、知らぬ間に怒らせているかもしれない。 油断してると、 ガブリと噛み殺されるんではないか。

そんな妄想を膨らませては、 草食動物さながら逃げ出すこともしばしばだった。 大変失礼なことをしたと反省するのは、 いつも後になってから。

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