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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第27章 月が(猿杙大和)※




日中の暑さが、夜の闇に吸い込まれる時刻。あなたは、薄暗いリビングのソファに寝転び、テレビを見ていた。

芸能人の不貞を騒ぐ退屈なワイドショー。突如、緊急記者会見の映像に切り替わる。眼鏡をかけた初老の外国人が、重々しい口調で英語を読み上げた。

あなたは英語が理解できなかったが、画面下に出てくる字幕によって、月が地球に接近していると知る。




きっかけは、遥か遥か遠くの宇宙で、土星に巨大な隕石が衝突したこと。


衝突により重力は崩れ、内部で核反応が連鎖した結果、土星核爆発が起こった。この爆発について、あなたには心当たりがある。昨日の深夜、空が一面明るくなったのだ。夜更かしの得意なあなたは、町中の誰よりも一番に窓を開けて外を見た。太陽以外でも光源さえあれば、夜でも空は青くなることを、あなたは人生で初めて知った。その後に、土星が消滅したと耳にした。


土星爆発による衝撃で、地球の周りを規則的に周回していた月が、バランスを失った。
月は公転の軸から外れ、地球の引力に負けて落下してくる。
衝突した場合、地球の裏側までマグマに覆われ、各地で大小の爆発が発生する。生命活動を維持することは、絶望的な環境となる。


淡々と流れるその字幕を眺めていたあなたは、ふと目眩を覚える。ブラウスの下で、背中に汗が伝っていくのがわかった。
  
「嘘だ」

出した声が、無人のリビングの中に消えると、あなたは後ろを振り返る。これ、音が静かなのよ、とかつて母親が買ってきた扇風機だけが、首を横に振っていた。それを見て、急に動悸が早くなる。世界にはいま、自分しかいない。


あなたが最初にとった行動は、スマホを持って『え』だの『やばい?』だのと打つことだった。両手がガタガタと震えだす。『?』を『ん』とタイプミスした直後、あなたは耐えきれずそれをソファに投げ捨てた。立ち上がり、部屋中の電気を点ける。目の周りに痺れを感じ、ようやく自分の呼吸が、浅く早くなっていることに気が付いた。

発作的な過呼吸を抑えられずに、玄関扉にしがみつき裸足のまま外へと転がり出る。酸素がない。手足が痺れ、夕暮れ道に黒いもやが広がり始める。

視界が黒に覆い尽くされる直前、目の前にふらりと人影が現れた。夕暮れ時で顔がわからなかったがあなたには、相手が誰なのかはっきりわかった。ほとんど息も出さずに「猿杙」と名前を呼ぶ。
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