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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第16章 さよならの粒度(及川徹)


なまえは頷いた。及川は目を細めて、「星の砂はどこへ行ったと思う?」と尋ねた。そして教えてくれた。ここからは見えない世界に、失くした物が行き着く場所があるということを。

幼い頃に使い切れなかった消しゴムの欠片、日記帳の小さな鍵、友達と交換した綺麗な千代紙。

いつの間にか自分の元から消えていったものたちは、この世界のひとつ隣にある場所に流れ着いているのだそうだ。ビスマス鉱石のように幾何模様の七色を浮かべ、思い出は、蛍のように柔らかく発光し宙を漂っている。

そして自分自身が死んだ後———肉体を抜け出した魂たちも、同じ場所へと辿り着く。


「私もそこへ行くのですか?」

「そう。生きていた頃の記憶と一緒に眠るんだ」

「徹さんとの思い出も?」

「寂しくないし、怖くもない」

「徹さんは?寂しくないのですか?」


縋るような声で尋ねると、及川は一瞬言葉に詰まった後、なまえを強く抱きしめた。呻きのような音が彼から漏れた。


「何ですか?」

「……独りごと」


そのまま無言。胸に押し付けられて、鼓動の音を聞きながら、なんてずるい人、となまえは思う。情けない顔を見せたくないのだ。この人は、弱いところを見せたくないのだ。だから自分も、気づかないふりをしなくてはならない。きっと、最期まで。


そっと、大きな手に自分の指を絡めた。右手同士を重ねると、強く握り返してくれる。この応答を、ぬくもりを、忘れたくないと思った。いつか、ひとりになる時が来ても。


不意に重ね合わせた手に及川がキスをした。
目を閉じて、唇を僅かに動かしている。間近でも聞き取れない程、小さな声で何かを唱えていた。

その意味に気が付いたとき、初めて心臓が熱を帯びて、脈を打ち始めたような感覚を覚えた。


ーーーこの人は、祈りを捧げているんだ。

感謝の言葉を。ふたりが永遠に続くようにと。



「俺たちなら離れないよ」

光を淡くした薄い毛布の下で、及川はなまえに伝えた。「君が先に向こうへ行ったって、すぐに追いつくから。だから、安心して」

「必ず迎えにきてくださいね。ずっと、待っていますから」


愛する人が頷いたのを確認してから、なまえはゆっくりと目を閉じた。長い思い出と共に眠る時を夢見て。その向こうにある、永遠の日々を信じて。







おしまい
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