第6章 金魚鉢の思い出
「すっごい……」
「ん? 有栖か。こんなの、コツさえ掴んでしまえば誰でも出来るよ」
「嘘だよ、そんなの。征十郎だから出来るんだよ」
「有栖はまだ一匹もすくえてないのか?」
「ん――……こういうの、得意じゃなくて」
敦君にばれないように、小さい声でそう呟いた。
「小さい時も、同じようなことを言っていたな」
「え……?」
「覚えているか? 小学生になったばかりの時、近所のお祭りに出かけて……一緒に金魚すくいをしたこと」
「そうなの?」
「……その時も、今と同じようなことを言って、羨ましそうに俺の器の中を覗いていた」
「べっ別に羨ましくなんて……!」
「でも、今は俺と勝負しないんだな、お前は」
「何が……?」
「ほら、紫原がどんどん数を稼いでいるぞ。やらなくていいのか?」
「げっ……!!」
気が付けば、宣言通り敦君がどんどん金魚を器の中へと放り込む。な、なんて奴だ! 恐ろしい!!
「ほら、コツを教えてやろう。一匹くらいはすくってみせるんだな」
「お願いします! 赤司先生!」
薄らと笑みを浮かべて、征十郎は私にコツを丁寧に教えてくれる。こうして征十郎は、私に優しくしてくれるけれど、きっといつまでもこんな二人ではいられないんだろうなと。無意識にそう思った。
少しずつ、思い出に変わる彼との幼い頃の記憶。
まるで大人になっていくかのようで、それを振り払うように私は夢中で今の征十郎を見つめていた。