第4章 報酬
「……チッ、ふざけんなよあの店主」
昨日のあの騒ぎの後、新選組も駆けつけて犯人は逮捕、報酬ももらって何事もなく無事終了。少年はその後姿を消すつもりだった。
な・の・に。
今手元にあるのは札束でもなく銭でもなく人参だった。
イライラしながら人参を一口かじる。
まだそれだけなら許せる。
しかしあの八百屋の店主
盗人を捕まえる一部始終を撮影していたのだ。
しかもそれをマスコミに流したからマジ最悪。
表に出れば即見つかり、サインは求められるし握手も求められるしで挙句の果てにフードまで取られそうになった。
お陰様で今ではこの路地裏から逃げ出せずにいた。
「はあ…」
口から出るのは深いため息と弱音のみ。
冷たい砂の上にズルズルと腰をおろした。
少年の名前は玲。
実は玲の水のように透き通った深い藍色の瞳と月明かりに照らされると怪しく紫色に変色する髪、そして超人並みの身体能力はある種族の特徴であった。
その種族、あの戦闘民族『夜兎族』よりもはるか上の戦闘能力が備わっている。
その名も『湖蝶族』
まるで湖の水のように透き通った瞳は敵の意識をとらえ、その曇りのない宝石に惹き付け、魅了し虜にする。
普段は黒い髪も、月明かりに照らされると各々の色を帯び能力が増す。
雪のように白い肌に細く華奢な体はほぼ夜兎族と同じだが、あきらかに湖蝶族は格がちがう。美し過ぎるのだ。
その美しさは時に争いを呼ぶ。
それ故に戦時以外はフードか何かで顔を隠している。
湖蝶族は少数しか存在しないため、とても希少価値である。そのため見つかったら何をされるかわかったものではない。
そんな事情でいつも身を隠すのが精一杯なのに、こんなに大事になってしまったらもっと苦労するではないか。
玲はあの時「これくらいならそんなに注目あびないかなー」なんて甘い考えをしていた自分にひどく絶望した。
いくら報酬はもらえたとしても、映像が流れてしまえばどうもできない
…しかも報酬が人参十本という、なんとも言えない悲しみが玲を襲う。