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さらば掲げろピースサイン【ヒロアカコミュ】
カテゴリー 趣味
作成日 2017-11-14 21:46:25
更新日 2018-05-25 18:22:31
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参加メンバー 9人

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掲示板

リレー小説 第一弾!

雄英学園祭 夢小説化計画!!

2017-11-30 18:11:03

szkc

  • 14.


    「断る」

    全会一致で白羽の矢を立てられた私達の担任……相澤消太は気怠そうにパソコンのキーボードを叩きながら、こちらに見向きもせず短く言い放った。

    「先生っ!ちょっと待って下さい!」

    食い下がる麗日さんを私は制止する。

    「無理言ってスミマセンでした。劇に出てもらえなくても先生には一番近くで……舞台袖で私達の劇を見ていて欲しいんです!それもダメですか?」

    「……どこで見ようと俺の勝手だろ」


    「そんなに冷たくされると……私っ、泣いちゃいますっ」

    もちろん担任に冷たくされたくらいで泣くはずもないのだが、ようは涙が出るくらい悲しい気持ちになればいいのだ。

    頭の中で思い浮かべるのは愛猫を看取った日の事。
    すっかり老いて痩せてしまった体を抱きしめると、ニャアと嬉しそうに短く鳴いて。何度名前を呼び掛けても再び目を開くことは無く、腕の中で眠るように息を引き取った。


    私の瞳から透明な雫がこぼれ落ちようとした瞬間、ギロリと睨まれた。その"個性"を打ち消す瞳に。

    相澤先生の"個性"抹消により職員室に立ち込めていた黒い雨雲は霧散したが、私の涙はまだ枯れてはいない。
    私が泣き続けている限り先生が瞬きをした瞬間、作業中のパソコンは土砂降りの雨に晒されるのだ。



    「先生ぇ、舞台袖で見ててくれますよねっ?」

    ダメ押しの問い掛けに、先生は忌々しげに舌打ちした。

    「わかったから早くこの雲をなんとかしろ」

    「ありがとうございます」

    にっこりと笑うと頭に小さな花が咲く。

    その背中を見送った教師は言った。

    「……妙な小細工使うようになりやがって」



    2017-12-29 09:24:39
  • 15.

    ーーーーーーーーー

    職員室を出たところで、ふぅと息を吐き出す。
    やってやったぞと私の満たされた達成感とは反対に、一緒に着いてきてくれた麗日さんは難しい顔をしていた。

    「隠技さん、これからどうするの?」

    「ぶっつけ本番になるけど、絶対に相澤先生をステージに引きずり出してみせるから!……よっし、今から台本何ヶ所か修正して……爆豪くんはなんか怒りそうだなぁ。切島くんたちが上手く丸め込んでくれるといいんだけど…それと八百万さんにはちょっとした舞台装置を作ってもらって、あとやっぱり"あの役"は常闇くんが適任だよね」

    私はもう口先だけの奴じゃない。なんてったって心強い仲間がいるんだから、神様だって作れる。デウス・エクス・マキナ。

    「隠技さん……なんかキャラ変わってへん?」

    「え、えっ?そうかな」

    「なんかデクくんみたい」

    みんなが待つ教室に戻ると、さっそく私の作戦を話した。


    「あ゛あぁ?ホントにそんなん上手く行くのかよ?」

    「でもだからこそ上手くいったらスゲーじゃねーか!俺は乗ったぜッ!」

    「女子にも手加減しねぇってのはある意味爆豪の強みだからな」

    「っるせぇしょうゆ顔!」


    「いいだろう。その役目、承った」

    「隠技さんが危険な目に会うのはあまり賛成できませんが、そこまで仰るのであれば私も協力させて頂きますわ!」



    私の案で無事脚本が決まり本格的に劇の準備が始まった。
    このクラスだけではなく学校全体が学園祭独特の熱気に包まれているようだった。




    2017-12-29 09:25:01
  • 16.
    放課後は、文化祭準備の時間。

    机と椅子は廊下に出して、教室の中では劇の為の衣装、背景、小道具をクラスの皆で作ってる。

    ちなみに係の振り分けは、基本的に希望通り、希望が無かった人は足りない所に足される形で決まった。

    衣装係、小道具係、背景&ポスター係、買い出し、会計…

    私は、台本の作成と他の係の手伝い…劇の役の有無に関わらず、全員に仕事が振られた。

    衣装係をやりたがった峰田くんに女子陣が全力で反対するっていう、“ささやかな騒ぎ”はあったけど。

    「…じゃあ、行ってくるね」

    「「いってらっしゃーい」」

    私は、芦戸さんや麗日さんに手を振り返して、教室の扉を閉めた。

    「えっと…先ずは、台本を完成させなきゃ」

    台本を作成する為に、コンピュータ室に向かう。

    パソコン借りて原本作ったら、職員室に行って印刷させてもらってて…教室持って帰って配る、と…

    そう頭の中で段取りを立てた所で、私はコンピュータ室にたどり着いた。

    ───────────────

    「ふぅ…」

    入力して印刷した原本を手に、私はコンピュータ室を後にした。

    ここから職員室までが長いんだよね…棟も階数も違うし。

    私は、凝った肩を片手で叩きながら、長い廊下を歩き出した。

    校舎のあちこちから、色んな声が聞こえてくる。

    ヒーロー科は劇だけど、サポート科は展示、経営科はバザー、普通科は飲食系…各クラス準備が始まってるんだ。

    勝負事じゃないけど…負けてられない!

    そんなやる気が出てきて、私は歩く速度を少し上げた……その時、

    ガラッ

    「──あれっ、文花?」

    「あ…よりちゃん」

    予期せぬ再会。

    通りかかった被服室から出て来たのは…“元”クラスメイトで、友達の林 頼子(はやし よりこ)ちゃんだった。

    中学の時から友達で…昨年、私が除籍された後も仲良くしてくれた、優しい女の子。

    「久しぶり!そっか、除籍取り消しされたんだっけ。改めておめでとー」

    「よりちゃん、久しぶり〜!会いたかった〜!」

    「学年違うと全然会わないよね。文花、弁当女子だから食堂来ないしさ」

    友達との再会で、私は自分の顔が緩んで、“個性”で頭に花が咲くのを感じた。
    2018-01-09 23:17:40
  • 17.
    「お、ヒマワリ。嬉しい時の花だね。そんなに私に会いたかった?(笑」

    「うん」

    普段なら照れて否定するけど、今は嬉し過ぎてそんな余裕無い。

    「文花が素直!めずらしっ……チッ、照れた時のサクラが見たかったのに」

    「チッて(汗」

    よりちゃんは私の“個性”に詳しい…私が気付かなかった事にまで気付いちゃうくらいに。

    例えば、照れ度合によって咲いたサクラのピンク色が強くなる、とか…

    「文花も劇の準備?何やるの?」

    「『シーカの炎』だよ」

    「あぁ、アンタがよく読んでたあれね」

    初めて何それって聞かれなかった!(←感動)

    「よりちゃんのクラスは?」

    よりちゃんは、手に持ってる赤い布を広げてみせる。

    「ルプティシャプロンルージュ!」

    「何でフランス語…」

    普通に『赤ずきんちゃん』って言えば良いのに。

    「正義の心に目覚めた赤ずきんちゃんが、狼の悪事を止めるべく、凄腕の狩人に弟子入りして、狼の魔の手からお婆さんを助け出し、最終的には故郷の村を救う、っていうヒロイック版ね」

    「そ、壮大だね」

    ヒーローっぽいような…ぽくないような?

    「あ、私そろそろ戻んなきゃだ。衣装に使う布取りに来てたから」

    うう、まだ話してたい…けど、私も職員室に行かなきゃいけないし…

    「…まぁでも、文花が楽しそうで良かったよ。イジメられてるわけじゃなさそうだし?」

    「うん…皆いい人達ばかりだよ」

    A組の皆を思い浮かべて、私はよりちゃんに頷いて答えた。

    「“滝沢”に会った時は逃げなよ?」

    「!」

    「あのクソヤロー、文花が戻ったって知ったら絶対また─」

    「大丈夫!」

    よりちゃんの言葉を遮って、私は笑って答えた。

    心配かけたくないし…思い出したくもないし…

    「…そっか。じゃ、またねー」

    「うん、またね」

    職員室とは反対の方向に向かうよりちゃんの背を見送って、私は再び職員室へと歩き出した。

    2018-01-09 23:22:32
  • 18.
    隠技が教室を出た数十分後

    「…なあ、隠技さん一人で行かせて大丈夫だったか?」

    ふと思い至った切島は、思ったまま教室の皆に向けてそう言った。

    「「?」」

    手元の各々作業中だったA組の面々は、一斉に手を止める。

    「隠技さん、台本の印刷に行ったんだろ?終わった後、一人だと全部は運べねえんじゃねえか…?」

    「確かに!」

    「誰か手伝いに行った方が良いかも」

    真っ先に同意したのは、隠技を見送った芦戸と麗日。

    「よし、では今手が空いている人には、隠技さんの手伝いに行ってもらおう!誰か行ける人は居るか?」

    「割とヒマな奴多いぞ」

    委員長として話を進めた飯田に、瀬呂が“ヒマな奴”を指さしながら伝える。

    文化祭準備と言ってもまだ初日、作業も簡単なものが多く、手持ち無沙汰に他の作業を見てるだけの者も多かった。

    「じゃあじゃあ、ヒマな人でジャンケンして決めるのは?」

    「なんか罰ゲームっぽい…隠技さんに失礼じゃね?」

    上鳴の指摘に葉隠は数秒考えて、再度明るく声を上げた。

    「勝った人が行くってことで!」

    (くじの次はジャンケンか…)

    クラスの冷静組の何人は、同時にそう思ったらしい。

    ───────────────

    ジャンケン大会が行われた数分後

    「クソが…」

    優勝者の爆豪は、両手をポッケに突っ込んだまま、廊下のど真ん中を歩いていた。

    「ダブり女なんか放っときゃいい」と思っていた彼も、クラスメイト全員からかけられる圧力には折れるしかなかった。

    こうなったからには早く済ませようと、爆豪は眉間にシワを刻んだまま歩き続ける。

    職員室に着く前に、隠技の姿は見つかった。

    「…?」

    その様子を見て、不審に思った爆豪は足を止める。

    廊下の隅、床に尻餅をついている彼女と、その辺りに散らばっている冊子、そして彼女を見下ろす男子生徒…

    爆豪の見知らないその男子は、蔑むように笑いながら…彼女に向かって何かを言っている。

    その手には、プリントの束があった。

    「──やめてッ‼︎」

    隠技が叫び声を上げる。

    嫌な音が、爆豪の耳にも届く。

    その男子は、そのプリント束を真っ二つに破ってしまった。

    「‼︎」

    直後、爆豪の足は再び動き出していた。

    2018-01-09 23:23:29
  • 19.


    『一番原始的な感情は恐怖だ。』って、どこかで聞いたことがあったっけ。

    最近はそんな“恐怖”って感情も、ちゃんとコントロール出来てたのにな。

    やっぱり、身に染み付いた恐怖というものは、簡単には拭い去ることは、出来ないのかな。


    目の前の男子生徒はにやっと私の嫌いな顔で笑ってる。

    えっと、なんでこうなったんだっけ?
    私、さっきまで、楽しかったよね?よりちゃんに会って楽しかったよね?みんなと準備するの、すっごく楽しかったよね。

    彼が声をかけてきただけでこれほどにも感情が変わってしまうなんて。

    廊下にペタンと尻餅をついた私は、ただ彼を見上げた。

    「へぇ。何コレ、劇の台本?なになに……シーカの炎…って、クソつまんなそーw」
    「そ、それには触らないで!」

    私の声なんか気にもとめないで意地悪そうな顔をして笑ってる。

    手を伸ばしてもパチンとはねられた。


    それでも私の心を支配していくのは悲しみでも怒りでもなくて、恐怖。

    記憶が鮮明になればなるほどその恐怖はハッキリとしたものになってくる。


    周りの気温が徐々に下がっていくのがわかる。

    息が白くなる。

    床が凍りついて廊下中に広がっていく。

    恐怖を感じた時の個性が発動してる。
    この人に、散々笑われたこの個性の。

    もうなんの震えかわからなくなった。

    「つまんねー台本はー、俺が処分してあげるね!」

    そう言って彼は、私の、みんなの、大切な台本に手をかけた。

    「やめてッ!!」

    その声は虚しく響くだけ。

    そのプリントは嫌な音を立てて真っ二つになってしまった。


    2018-01-25 07:55:05
  • 20.


    「あ…あぁっ……!」

    彼がバラバラと手から落とした紙を必死に拾い集める。

    心の中の恐怖が悲しみに圧され始めた。

    頭上に暗雲が立ち込めるものの、いつものように雨が降るのではなく、恐怖が消えていないためか雪になった。

    もう心の中、ぐちゃぐちゃだ。

    「いっ!」

    少し離れたところのプリントに手を伸ばすと彼にぐしゃっとその手を踏まれる。

    「そんなゴミ、拾ってどうすんの?」

    ゴミ……。

    みんなと頑張るって決めたこの大切な台本が、ゴミ。

    必死に決意して、珍しく能動的に動けてがんばれた、その結晶が、ゴミ。


    この人、ゴミって言った。


    一瞬身体の周りで炎がメラリと揺れた。

    「はぁ?なに?怒ってんの?」

    その声と、少し漂う紙の焦げた臭いでハッと怒りを抑える。

    「滝沢くん。足…どかして。」
    「はぁ?聞こえなーい」
    「いっ!?いたっ」

    彼は足をどかすどころかその足に体重をかけてくる。

    紙の焦げる臭いがする。

    大切なものなのに。

    体に積もっていく雪が順番に溶けて体がびちょびちょになる。

    私、お姉さんなのになんて頼りないんだ。

    寒いのか暑いのかわからない。

    心がどろどろになっていって、わけわかんない。

    そんな時だった。



    Whomp!!!!



    その音は突然に、耳に入ってきた。

    手にかかっていた痛みがフッと消える。

    そして目の前に現れたのは、ヒーローでも、王子様でもなくて、

    「……ば…」

    手をポケットに突っ込んでいて、ちょっと…いや、かなり態度の悪い、蛮族の王子様だった。


    2018-01-25 07:56:06
  • 21.


    驚いたからか、吹雪かけていた雪がぶわっと消えた。

    さっきの派手な音は、私の手を踏んでいた足を蹴り上げた時のもののようで、滝沢くんは凍った床に無様にすっ転んでいる。

    「は…?…てめぇおい!いちね」
    「おいダブり女、勝手にトラブル起こしてんじゃねぇ!んだこの個性!!半分野郎みてェな個性使いやがって!!」
    「えっ……ご、ごめんなさい。」

    爆豪くんの目には滝沢くんは入っていないようで、ただひたすら私に暴言を吐いた。

    でも今は、それには全然悪意がないように思えて、何故だか心が落ち着いていった。

    雪はやみ、暗雲は徐々に消えていき、体に降りていた霜も溶けていった。

    「おい!!無視してんじゃねーよ!」
    「あぁ?うるせぇ、俺はダブり女と話してんだ!」
    「はぁ!?」
    「こいつがどうなろうとクソほどどうでもいいがな、無駄に手ェ出して俺の仕事増やしてんじゃねぇクソモブが!!」

    う、ううーん。

    なんだか素直に喜べないなぁ。クソほどどうでもいいって言われた…。

    でも、気がつくと雪も氷も炎も無くなっていて、


    何故だか頭には花が芽吹いていた。


    爆豪くんは乱暴にプリントを拾い集めると

    「とっとと立てや置いてくぞ。」

    と言ってサッサと歩いていってしまった。

    なんでかな。胸がぎゅーっと暖かくなるのを感じる。

    「待って!」

    私も急いで冊子をまとめて立ち上がった。

    「おい!隠技!アイツ誰だよ!!」

    後ろから声が聞こえて、立ち止まった。

    スキじゃない彼の声だ。

    「…クラスメイトで……と…友達。」
    「…はっ…!!今年の1年マジでろくな奴いねぇな!!」
    「いたっ!」

    そう言って彼は私の髪を引っ張る。

    ムッとした。

    爆豪くんのお陰ですこし、気持ちが大きくなっていたのかもしれない。

    なんで怖がってばっかいたんだろう。
    言い返してやる!

    そう思った私はクルリと振り返り

    「滝沢くん……うるさい!!…もう、2度と関わらないで!!」

    Nyah!

    「っ…!!」

    私は炎を少し纏いながら彼に向かってアッカンベをした。

    彼の唖然とした顔を見て、私の心はなんだかちょっとスカっとした。

    そして私はタタタッとあの何故だか安心する背中を追ったのだった。

    「んだよ、隠技の癖に」

    そんな声が後ろから聞こえた気がしたけど、振り返ることは無かった。


    2018-01-25 07:57:48
  • 22.
    「あっ! 来た来たっおかえりー隠技さーん……」

     女子生徒の帰還にいち早く気付いた、葉隠の嬉しそうに弾んだ声のトーンはゆっくりと下がっていった。
     流れの悪くなった空気を察した周りのクラスメイトも顔を上げ、教室の扉に目を向ける。

     そこにはいつも通りヒール顔の爆豪──の後ろでズタボロな隠技の姿。

    「隠技さん?! 何その格好!?」
    「どうしたの!!」

     数十分前、教室を出た時の彼女はノートを手に意気揚々と、台本作りの為パソコンを触りに行った筈だ。

     それなのに、その姿はなんだ?

    「雪山でキャンプファイアーでもしてきたのか!?!」

     飯田のツッコミは少しアレだと思ったが、意外と的確だった。
     髪は湿気てぐしゃぐしゃ、シワが目立つ制服は所々濡れていて何だかちょっぴり焦げ臭い……。

    「爆豪!! ちょっと何してんの!!」
    「ンでそうなんだクソが! 舐めとンか殺すぞ!!」

     押し付けられた仕事をこなして戻って来たというのに、数秒で容疑者扱いされた爆豪はストレートに殺意を顕にする。

    「あ、ち、違うよ! 爆豪くんはその!!」

     慌てて割って入ってきた隠技をよく見れば、頭には満開の花が咲いていた。
     花冠なんて可愛いらしいものじゃない。もっさりとしたそれは、フラワーアーティストが手掛けた贅沢なアレンジメントだ。たぶんそこそこお金が貰える奴。

     そんな派手な頭に、驚くことにその場の全員が気付いてなかった。
     良いのか悪いのかは置いといて、兎に角この数日で彼女の存在が1―Aにすっかり馴染んだ証拠だった。


    **

    「──なるほど、滝沢ってのに破かれちまったのか」
    「で、蛮族の王子様が颯爽と駆けつけて」
    「花が咲いた、と」
    「ンに呑気に花咲かしとんだダブリ女、殺すぞ!!」
    「な、何でだろー、ごめん」
    「滝沢ね……覚えた!!」
    「絶対許せへん!」
    「覚えるのは台本の方じゃないかしら」

     大事なクラスメイトを、大切な台本を滅茶苦茶にした犯人に怒りの炎を燃やすクラスメイトを冷静に諭すのは蛙吹。

    「でもさー!」
    「んーん、いいの! アッカンベしたから!」
    「隠技さん……」

     アッカンベで良いんだ。
     優しい。
     ていうかアッカンベって……え。

     すごい可愛いんですけど。

     やり場の無い怒りが浄化されていく。
     彼女の個性は、人の心を癒す事も出来るのだろうか。

    2018-02-21 11:09:25
  • 23.
    「爆豪くん、拾ってくれたのにごめんね。また今度プリントし直すから」
    「……ケッ、知るか」

     バッチリ笑ったつもりの隠技だったが、シワくちゃのプリントを握り締めるその手に悲しさが滲み出ていた。

    「いや、そのままでいンじゃね?」

     しんみりしてしまった空気を、パッと入れ換えたのは切島。

    「でもぐしゃぐしゃだし……」
    「隠技が頑張って作ってくれたヤツを使わねェなんて男じゃねェ!!」
    「いや、え、でも」

     状況が飲み込めない隠技を置いて、
     そうだよ! とクラスはガヤガヤと盛り上がり始める。

    「あんまし隠技の仕事を増やすのは悪いしなー」
    「濡れてっトコは乾かして、テープでも貼っときゃ読めるだろ」
    「そんなお困った時に瀬呂テープ!」
    「俺、自分でも地味過ぎて泣けてきたわ」
    「ドンマイ」

     肘のテープを引っ張られながら、瀬呂が嘆く。

    「そうだ! 隠技さん、これ見て!」

     手招きされたのは、作りかけの小道具が散らかる床の先。足の踏み場に苦戦しながら何とか辿り着いた隠技に、じゃん、と女子達が見せたのは先端がくるりと渦を巻いた木製の杖だった。

     ファンタジックな小物の登場に隠技の胸は踊る。

    「……これっ、魔法使いの! どうしたの?!」
    「ヤオモモに作ってもらったー!」
    「このくらい、お安い御用ですわっ!」

     けど……隠技の表情が曇る。
     こんな立派な物を作ってくれたのに、肝心の台本がぐしゃぐしゃで焦げてるなんて格好がつかない。

    「端っこだけじゃん。ダイジョーブ!」

     芦戸の一言に釣られて、周囲も奇妙なポーズを取る。

    「うんと良い劇作って、滝壺をギャフンと言わせてやろーよ!」
    「あれ……そんな名前だった?」
    「忘れた!」
    「葉隠さん切り替え早いね……」

     ニッと歯を見せる友人達に、隠技の涙腺が緩む。

    「……ありがとう。私、頑張るから!」
    「よおし、がんばろー!」

     それは、誰が始めた訳でも無い。
     突然わらわらと集まった少年少女達は、彼女を中心に輪を作る。

     拳を握ると、纏まりのないタイミングで突き上げて声を上げた。


    ──エイ、エイ、オー!


     開けっぱなしの扉から飛び出した鬨の声は、決して締まりが良いとは言えないけれど、頼もしくて温かで。

     文化祭の準備は始まったばかりだが、彼らの絆と団結力は、既に冒険に出れるくらいに強くなっていた。

    2018-02-21 11:10:54
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