日記
暑い暑い夏の夜。
いつもは人通りの少ない商店街。
だけど、一年に一度だけこの商店街が賑わう日が来る。
今年も始まる夏祭り。
人が行きかう道をただただ見つめる。
狭い狭い水たまりから。
プラスチックの箱の中、今日も泳ぐ。
たくさんの人に覗き込まれては、逃げ回る。
「お母さん、これほしい」
小さな女の子は指をさす。
店番のおじさんはニコニコと網を渡す。
乱暴に網は水たまりの中へ。
網の一部が身体に触れる。
痛い。
触れたところがズキズキと痛む。
もう一度網が身体に触れる。
身体が浮いた。
ぱしゃん。
だけど網はすぐに破れた。
またこの水たまりの中へと叩きつけられる。
痛い。
もう何度も何度も経験した傷み。
"すくってくれる"なんて期待はもう忘れてしまった。
何も感じない。
ただただ泳ぐだけの日常。
何も変わらない日々。
だけど、そんなある日。
私の目の前にあなたは現れた。
プラスチックの箱の前、あなたはしゃがんで少しの間箱の中身を眺める。
「どうせすくってくれないんでしょ」
なんて友達と言いながら、私はただただ泳ぐ。
あなたはおじさんから網をもらってまた少しの間箱の中を眺める。
しばらくすると、あなたはゆっくりとした動作で、静かにやさしく網を水たまりの中に沈めた。
やさしい手つき。
ふわりと身体が浮いた。
でもそれは一瞬の事。
気が付いたら私は、透明な小さな袋の中にいた。
そう。
私をすくってくれたのね。
あなたがその網で私をすくってくれたんだね。
偶然でもいいと思った。
すくってくれたことがとてもうれしかった。
ゆらりゆら。
あなたが運ぶ小さな透明な袋から見える世界はとても新鮮。
広い広い世界が次々見える。
プラスチックの箱の中とは違って、ここの世界はカラフルだ。
この深い藍色の浴衣はあなたのもの。
ヨーヨー片手に子供たちが走り去る。
一瞬にして大きな花が空を染めた。
「楽しい」
初めてのことなかりで、興奮してしまう。
プラスチックの箱の中にいた時はこんな世界想像していなかった。
期待なんてこれっぽっちも。
楽しいなんてそんな感情生まれてくるなんて知らなかった。
楽しい。楽しい。楽しい。
ゆらりゆら。
本当は透明な小さい袋の中で泳ぎ続けるのは苦しい。
だけど、隣にあなたがいてくれるからそんな苦しさ気にならない。
本当はあのプラスチックの水たまりから出てしまうと、長くは生きられない。
残された時間はとても短い。
けど、あなたとこの世界を見れてよかった。
今とても倖せだよ。
もう少しだけ、このカラフルな景色とたくさんの音にあふれた広い世界を眺めていたい、あなたと一緒に。
どうしてかな。
網の一部が身体に触れているわけでも、網が破れて水たまりに叩きつけられてもいないのに。
痛いって感じてしまう。
どうしてかな。
狭い狭い水たまりの中が私の全てだった。
だけど、あなたは私の目の前に現れてそしてすくってくれた。
偶然でもいい。
その網ですくってくれたの。
すくってくれたんだよ。
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今日で7月が終わり明日から8月ですね。
みなさんいかがお過ごしでしょうか。
初めて日記で小説を書きました。
あんまり好きじゃないんですよね、日記で小説を書くの。
でもこれを二時創作にするのはなんか違うなって。
でも書きたいなって。
なので日記に書いてみました。
読んでわかるかと思いますが、このお話の視点は「金魚」です。
毎年毎年私は金魚すくいをするのですが、数日で死んでしまうんです。
いつも思います。
私は金魚を殺したくてすくっているわけではないのに。
ただ、幸せにしてあげたいのに。
あの狭い箱の中で一生を終えるのはとてもかわいそうで。
でも結果的に殺してしまう。
だったら金魚すくいなんてしなければいいのに夏祭りになって出店で金魚すくいがあるとやってしまうんですよね。
箱の中と箱の外。
どっちが幸せなんだろう。
そういう思いでこれを書きました。
このお話では箱の中からでれて幸せだよって感じで終わります。
完璧私のエゴです。
また金魚すくいって「金魚掬い」って書くんですよね。
でも私は今回ひらがなで書きました。
「掬う」と「救う」をかけているからです。
私たちにとっては「掬う」かもしれませんが金魚たちにとっては「救う」なのかもしれません。
今年も多分私は金魚すくいをやるのでしょう。
その時私は金魚を「掬う」のか。
それとも「救う」のか。
それではまた。
アリス。
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