前回の続き。これでラストです。
やっぱ長い…。そしてもう少し早めに投下しようと思ってたのに『真夏の方程式』が面白くてこんな時間になってしまった。
「人にはパーソナルスペースというものがある」
「…え?」
恐る恐る目を開ければ、湯川の柔らかい眼差しと目が合った。
「誰しもが持っている自分の縄張りみたいなものさ。通常、この範囲内に他人が入り込むと人は緊張を覚えてしまう。吊り橋効果の完成というわけだ」
あぁ…と小さく吐息を漏らす。
さっきからまともに親友の顔を見ることが出来ない。きっと説明の通りなんだと思う。実際俺の心臓はバクバクと高まり治まる気配がない。
「ただ…」
眼鏡の奥の目が細くなる。空いた左腕を俺の左胸の上に置かれた瞬間、小さく自分の身体が跳ねる。
高鳴る胸の鼓動と熱くなった身体がバレるのは恥ずかしい。
「誰に対してもこの効果があるわけではないんだ。ある程度、相手が自分を異性として意識しているというのが最低条件だ。でないと不快に感じられてしまうだろうからね。…そうなるとおかしいな。君がこんなにも心拍数が高くなる理由はなんだ?」
湯川がニヤニヤしながら胸から手を離す。
「それは…」
言葉に詰まる。そんなの俺だって知りたい。今だって湯川に触れられた部分が熱を持ち熱い。
だが湯川の言う吊り橋効果は、さっきの説明で理由にはならない事が判明してしまった。だとすると…
顔が赤くなるのが自分でも分かる。気付かれないように顔を背けるがもう遅いだろう。何かを言わなくてはと思ったが、その必要はなかった。
「まぁいい。答えはまたいずれ聞くとしよう」
湯川はさっさと俺から離れ椅子に腰を下ろした。
「実験に付き合わせて悪かったね。コーヒーのおかわりを入れよう」
その場に立ち尽くす。
数秒してからようやく椅子に座り、文句を一つ口に出す。卑怯だとは思ったが、今はまだ答えに気付きたくはない。
「何も、俺に実験しなくてもよかったじゃないか」
「先にこの話を振ったのは君だろ?」
「まぁ、そうだけど…」
そう言われてしまうと口籠るしかない。
湯川はインスタントの粉が入ったマグカップにお湯を注ぎながら、悪戯っぽい笑みを浮かべこう付け加えた。
「それに、僕だって男だからね。どうせ実験するなら好みの人間の方がいいじゃないか」
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