12月28日 月曜日
「はぁ…」
口から零れた吐息が、白く染まりやがて空に溶けた。
今日も事務所へ行って、仲間とおしゃべりして、零れた仕事も回って来ずにまた何もしないで帰宅。
そんな1日が始まるのだろうか?
「我が封印されし力よ…まだ覚醒の時には及ばぬと言うのか…」
(私の実力じゃまだ人前には立てないの…?)
このキャラクターだからいけないのか?
今時、こういうのは受け入れられないのか?
「されど、己を偽る事は己を欺く事。我が赫血を生み出したる者への侮辱。」
(だけど、自分を演じるなんて、自分を騙しているようなこと。そんなの両親に対する侮辱と同じでしょ?)
これが自分なのに…
ハロウィンイベントへはたくさん呼ばれて、たくさん仕事をした。けど…今は…
そうこう考えているうちに、事務所に着いてしまった。気合いを入れなくては。
頬を2回叩く。
「いざ、参りたもう。」
(よし!行くぞ!)
勢いよく扉を開けていつものセリフを言う。
「我、此処に君臨したまえる!今宵も我らの聖なる輝きを放ちせしめよ!」
(おはようございます!今日も笑顔で頑張りましょう!)
「蘭子ちゃん、おはようにゃ✨」
「あ、おはようございます。」
猫耳の前川みくが1番に声をかけてきた。
彼女は同じキャラアイドルとして色々痛いところを突いてくる。ほら、もうヘマに気付いて眉を寄せて顔を近づけて来た。
「ちょっと蘭子ちゃん(*`へ´*)キャラを忘れてるにゃ❗️テレビとか仕事じゃなくても気を抜いちゃいけないにゃ❗️」
ほらね。
「はぁ…我はなんと愚かな罪を…此命の灯火にかけて償おうぞ。」
(はぁ…ごめんなさい。もっと一生懸命頑張ります。)
「そうにゃ❗️それこそ蘭子ちゃんにゃ✨じゃみくはお仕事行ってくるにゃ(*^o^*)」
「己の頂を拝んで来ようぞ!」
(全力を尽くして頑張ってください!)
みくちゃんは相方の李衣菜ちゃんと事務所を出て行った。
「はぁ…」
ラブライカの2人が心配そうに寄って来て隣に座った。
「蘭子ちゃん、どうしたの?」
「蘭子、今日ハ少し、元気ありまセンヨ?」
「何かあるなら話して?なんでも聞くわ。」
「我は………私…このキャラクター、辞めようかなって…」
「えぇ⁉︎」
「Почему?何故デスか?」
私は全て話した。
仕事が来ないこと。
キャラクターが受け入れられないのかと思っていること。
みくちゃんのように堂々としていられないこと。
なにより自信が持てないこと。
そしたら2人は優しく慰めてくれた。
「蘭子ちゃんは、お仕事とかウケとか考えなかったら、どうしたいの?」
「もちろん、今のままがいい…です。これは、キャラじゃなくて、本当の私だから!」
「それならそのままでいいじゃない。」
「でも…」
「蘭子、そのママが1番デス。そのままの蘭子がイチバン輝いテます。」
「そうよ。自分を偽る必要ないの。そのままの蘭子ちゃんにしか出来ない仕事がある筈よ。」
「ワタシ、今ノ蘭子が好きデス。」
「新田さん…アナスタシアさん…」
私は何していたんだろう。
そうだ。作ったって上手く出来っこない。そうだった。
今のままで良いって…何であんなに悩んでいたんだろう。
「私…我は唯一にして無二。我が閉ざされし力は此処にあり!」
(私…私は私なんだ。私の魅力はこれなんだ。)
2人は微笑んだ。
すると事務所の扉が開いた。
顔を出したのはプロデューサーだった。
「予定のアイドルが来れなくなってしまいまして、急遽代役に回れる人はいますか?」
「なんのお仕事なんですか?」
「ホラー番組なんですけど…」
え…?
これは偶然なのか。
仕事が私を求めているようだった…
行かなくては!
「我が君臨せしめよう!今宵、封印されし暗黒の翼を未知の棺より解き放とうぞ!」
(私が行きます!テレビの中から私の全てを今日、配信します!)
「蘭子さん!ありがとうございます。番組のイメージにぴったりです!早速なのですが、皆さん待っていらっしゃるので行きましょう!」
「闇に呑まれよ!」
(頑張ります!)
2人の優しく見守る視線を背にスタジオへ向かう。
私は私。此処にいる。やってみせる!
「神崎さん、何か良いことでもありましたか?」
「…?」
「笑顔が…素敵です。」
「愚かな者よ。光を分かつ双葉の友が凍えた臓器を溶かしたぞ。」
(ありがとうございます。2人の友が慰めてくれました。)
「そうですか。よかったです。」
此処から始めよう。
明日の私を。
此処から始めよう。
未来の私を。
これが本当の私だから……
ー闇に呑まれよ!ー
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