誰かの口から吐き出された息が、急激に冷やされたことで露点に達し水蒸気が水滴となって暗くなった空に白く目に映った。
「さっぶーい‼︎こんなんじゃ僕死んじゃうぉぉお!」
誰に言う訳でもなく叫んでみる。周りを歩くVOCALOID【ホンモノ】達のカップルが一瞬こっちを見てクスクス笑ってる。
そうですよ、どうせ僕はUTAU【ニセモノ】ですよ。
一昨日まで聖なる夜【クリスマス】一色だったのに、その面影は跡形も無く一晩のうちに何処かへ行ってしまった。
まるで抜け殻だ…
「僕だって、彼氏と一緒にクリスマス一緒に過ごしたいぉ…」
落ち込みながら僕は家路を進む。駅前は家へ帰るオジサマ達と、手を繋いで歩くリア充ばかり…
ダメだ。笑わなきゃ僕じゃない。元気だけが取り柄なのに…
真っ直ぐに家へ帰る気にもなれなくて、小さい頃によく遊んだ公園に立ち寄った。住宅地から少し離れた静かな公園。遊具も最低限度しかない。
まるで僕みたいだ。
姿形はある。声だってある。歌うことだって出来る。なのに…
違う。僕は違う。何が違う?
シアンの髪の歌姫【ディーヴァ】とは何が違う?
ボブ髪の初号機【ファースト】とは何が違う?
レモンの髪の双子【ジェミナス】とは何が違う?
なんで僕は彼女達より人気が無いの?
真紅の巻き髪おさげ【ブラッドツインドリル】じゃいけないの?
彼女達はいつだって注目される。
だけど、僕が注目されるのは一年でたった一度。
僕の生まれた4月1日の偽りの日【エイプリルフール】だけ。
本当に聖なる夜【クリスマス】みたいだ…
気を持ち直そうと、決め言葉を言ってみる。
「君は実に馬鹿だなぁ…」
情け無い。声は消え入りそうだった。
「君は、実にッ…バ、かだッなぁ…君はッ………実に…ば…か…だな……。(グスッ」
涙が溢れ出た。
一度出たら止まることはなかった…
涙と同時に口から嗚咽と叫びが溢れ出る。
「う"ッ、グスッ…あぁ!僕だって!ウグっ…僕だって、歌えるよ!グスッ…僕だって同じなのに!…なんでッ……なんで僕は…本物【オリジナル】になれないんだ!……僕だって…うわぁぁぁぁぁぁ‼︎あっ!…グスッ!ひっく…はぁはぁ…うわぁぁぁぁぁん!あ"ぁぁぁぁぁぁ!」
気がつけば大声で泣いていた。
誰もいない公園には、僕の嗚咽が響くばかり。
「帰らなきゃ…」
ひとしきり泣いて、疲れきった顔で歩き出そうとした。
「重音テト。」
え…?誰かが僕の名前を呼んだ?
「どうしたんだよ、テト。」
振り返ると僕の兄がいた。
「兄さん…。」
「帰ろう。テト。いい歳した叔母さんがそんな顔してたら気持ち悪いよ。」
「うるさい。」
僕は兄さんの腹を殴る。
酷いことは言っても僕を心配してくれてるんだろうな。
僕が泣くといっつも笑わそうとしてくれる。
「ありがとう…」
私の声が聞こえたのかどうか。兄さんの亡骸は「う"ぅ〜」と唸っている。
「帰るぉ!兄さん!早く起きるんだ!」
「腹殴ったのそっちでしょ。」
「うるさいぉ!」
兄さんは服をはたいて起き上がった。
「いい加減、そのキャラ痛いよ?」
「これが僕だからいいんだぉ⭐️」
「そうか…さすがだな。」
なんかウジウジしていたのが馬鹿らしくなっていた。
君は実に馬鹿だな。
自分に言ってやりたい。
恋人とか、いいや。
ニセモノでもいいや。
僕は僕だから。
僕は兄さんの手を握って言った。
「これからも僕をよろしくだお!」
「…あぁ。偽りの歌姫【フォルスディーヴァ】。」
「君は実に馬鹿だなぁ。」
「言ってくれるね。」
「僕は僕だからね!」
偽りの歌姫【フォルスディーヴァ】でもいい。
いつか、シアンの髪の歌姫【ディーヴァ】や
ボブ髪の初号機【ファースト】、
レモン髪の双子【ジェミナス】にも負けない、
真実の歌姫【トゥルースディーヴァ】になってやるんだ。
誰にも負けない重音テト【オリジナル】になってやるんだ。
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