■旅館に一人旅に来た貴方。ところが宿の手違いで【仙道彰】と同室に!なんて話そう?
高校生だから心配はないと言われたが・・・
日頃の疲れを癒したくて一人旅に来たのに、まさかの相部屋とは。
ドアを開けると、すでに先客は座椅子で寛いでいた。
「どうも」
ツンツン頭に、甘いマスク。
何より・・・
「でかっ!!」
「190センチあります」
「・・・本当に高校生?」
余裕たっぷりに、ニコリと笑って頷く。
それが初めて交わした会話だった。
■中居さんが衝立を用意してくれたので結局同じ部屋で寝食するコトになりました。晩御飯はなんだった?
メインは、黒豚の高級しゃぶしゃぶ。
なのに、仙道は刺身やおひたしなど副菜ばかりを食べている。
「お肉が嫌い?」
「イヤ、食う時は食いますよ。良かったら、オレの分もどーぞ」
聞けば、バスケの選手らしい。
その彼よりも食べるのはどうかと思ったが、お言葉に甘えて黒豚を堪能させてもらった。
「オレにもビールをくださいよ」
「ダメ。高校生でしょ」
すると、残念そうに笑う。
その顔は、やはり幼さを帯びていた。
■食後のお楽しみはやっぱり温泉!あなたが部屋に戻ると【仙道彰】が浴衣を着てくつろいでいました。どうする?
「あれ、浴衣じゃねーの?」
「前がはだけるから」
「別にオレは気にしませんよ。見てないフリしますし」
「それ、見てるってことだよね?」
その言葉を否定するでもなく、にこやかに女物の浴衣を手渡してくる。
一番大きなサイズなのに、足りない袖からは長い腕が飛び出していた。
「毎日から逃れるためにここへ来たんでしょ。普段とは違う格好をした方がいい」
その時、初めて。
この高校生が下心からではなく、自分を気遣って浴衣を勧めていることに気がついた。
■夜も遅くなりました。あまり眠たくないので衝立越しに貴方は【仙道彰】と話していましたが、【仙道彰】は寝てしまった様子。どうしますか?
「一緒に寝よーぜ」
電気を落としてから十数分、衝立の向こうから聞こえてくる。
「淫行条例って知ってる? 17歳の仙道君と寝て捕まるのは私なの」
「同意の上でも?」
「そもそも同意すると思う?」
すると返事が返ってこない。
諦めて、寝たのか?
そーっと横から覗いてみると、豆電球に照らされた瞳がこちらを向いている。
「おやすみ」
その声は、もう大人の男性のもので。
胸がドキドキした。
■朝になって起きる貴方。するとなんと【仙道彰】が同じ布団に寝ていました!一体何故?
「は?!」
何故、こいつがここにいる?
何故、抱きしめられている?
混乱している私を気にせず、顎が外れるんじゃないか? と心配になるような大あくびをしている。
そして、案の定はだけていた浴衣の前を合わせてくれた。
「すんません、寝顔見てたらやっぱ我慢できなくて」
あっけらかんとした物言いに、怒る気にもなれない。
「手は出してません。朝なんでちょっと勃ってますけど」
その優しい目、どうにかして欲しい。
ドキドキするではないか。
心中を察したのか、おでこにキスされた。
■目が覚めた貴方に謝る【仙道彰】。御詫びに何か奢ってくれるらしいです!何がいい?
「オレ、練習バックレてここに来て良かった」
「え?」
「あんたに会えたし」
聞けば、夏に三年生が引退し、今は彼がキャプテンを勤めているという。
責任とかそういうのニガテなんで、と笑う。
「人とつるむの、あまり好きじゃないんだけど・・・あんたならまた会いたい」
布団の中で、大きな手が私の背中を撫でた。
「来年、また同じ日にこの部屋を借ります。布団に入っちまった詫びに、宿代は奢りますから・・・」
あんたも、来てください。
「そん時はオレ、18歳になってるし。淫行条例に引っかからねー」
「けど・・・お酒はまだダメだよ」
「来てくれる?」
頷くと、嬉しそうに微笑んだ。
たった17歳の少年に、
たった一晩で、
恋に落ちてしまったことに自分でも驚く。
でも、不思議と心が休まった。
■【仙道彰】と別れ、地元に帰ってきた貴方。
「オレはここで」
まさか、地元の駅まで送ってくれるとは思わなかった。
ありがとう、というと眉毛の端を下げて笑う。
「次に会えるのは一年後だからな。できるだけ一緒にいてーし」
「さようなら、仙・・・」
すると突然、顎を持ち上げられる。
遠ざかっていく、電車の音。
背中を丸める、大きな体。
触れるだけの優しいキスが、別れの言葉を遮った。
そっと目を閉じて思う。
私はこれからきっと、貴方のことで頭がいっぱいになる。
次に会う時は、今よりももっと深く唇を重ねよう。
仕事だけの毎日を変えてくれて、ありがとう。
「終」
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