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お昼を終え、腹ごなしにと職員室を出る。廊下を歩いていると、少年少女の若い、賑やかな声が聞こえてきた。
なんだなんだと思い、その生徒の輪に近づいていくと、抹理に気がついた生徒がにこりと微笑む。
「抹理先生!こんにちは」
『こんちには。なにしてるの?』
「えっとですね、さっきオールマイトがここに笹を置いていってくれたんです!明日は七夕だからね、願い事をするといいよって、短冊まで…」
『オールマイト先生が…そっか、明日は七夕なのか』
生徒たちが囲む笹を眺める。裏山で取ってきたのだろうか、立派な青々とした竹だ。そこに赤や青、黄色といった、様々な色の短冊がぶら下がり、その笹を鮮やかに彩っている。
「抹理先生もどうですか?」
『お願いごとか…うん、私も書こうかな』
抹理は薄い水色の短冊を摘むと、きゅぽっとマジックペンの蓋を開けた。
すると、その音と同時に、学内に予鈴の音が響いた。
『みんな、もうすぐ授業始まっちゃうよ。戻った戻った〜』
明日に控えた七夕を心待ちにしていた生徒たちは、足音をばたばたと鳴らしながら、忙しなく教室に向けて駆けて行った。
そこには、抹理が一人だけ取り残された。
『さてさて、なに書こっかな』
A組の子たちの顔や、お世話になっている先生方の顔が浮び上がる中、ひときわ強く輪郭を浮かべたのは、やっぱりあの人だった。
『うん、コレだな』
短冊に紐を通し、笹の奥の方の目立たないところにくくりつけた。
こんな、お願いごととも言えない、いま現在の思いを書いたところで、織姫も彦星も困ってしまうだろうなと苦笑を洩らし、職員室へと踵を返した。
『えっ』
癖のある伸ばしっぱなしの黒髪と、顎に生える無精髭。くたびれた黒いトップスの上からでも分かる鍛えられた精悍な体躯。
たったいま思い浮かべた人が、目の前に立っていた。
「なにしてんだ抹理」
『え、いや、あの、明日、七夕なんだって』
「そうだったか」
『私も忘れてて。教えてもらったの』
抹理の背後に立てかけてある笹に視線を向けると、生徒たちが書いたのだろう短冊の重みで、少ししなっていた。
「なんか書いたのか?」
『うん。でも…たったいま叶ったの。七夕、明日なのにね』
「…?何書いたんだ?」
『ふふ、なぁいしょ』
抹理は小悪魔のように人差し指を唇に押し当て微笑む。
兄は首を傾げていたが、妹は気にすることなく、するりと腕を組んだ。
静かな廊下の真ん中、授業を受けている生徒たちには聞こえない、二人だけが共有できる小さな音で笑う。
恋する抹理のささやかなお願いごとは、空で恋人を思い合う織姫と彦星によって叶えられたのだった。
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日記って、ドリーム設定機能するかわからなくて、デフォルト名で書かせていただきました。脳内変換よろしくお願いします…!
願い事じゃなくて、彼女なら大きな幸せを祈るよりも、いまの思いを叶えたいんじゃないかなぁって。
このあと二人でそうめん食べるんじゃないかな笑
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