第10章 西海の鬼は悪鬼ですか?
屋根裏は埃っぽいとは佐助に言うとばれないように外に横抱きのまま出てくれた。といっても地上に下ろしてくれたわけではなく、おりたのは屋根の上だった。
「あー…夜って涼しい」
「昼はあんなに暑いのにね」
平成とは比べ物にならないくらい涼しかった。これくらい涼しければ夜に熱中症で倒れるお年寄りも、寝苦しいとわめく子供もいなくなるだろうに、とは思いを馳せる。
それを感じ取ったのか佐助は横に座って同じように空を見上げた。
「…帰りたいんだ」
「そんなこと思ってないよ」
「忍びに嘘が通じると思う?」
「すみませんでした」
こうやって空を眺めていると落ち着くのだが、ここの空は時々不安にさせる空なのだ。
きっとゲームへのトリップではなく、史実の世界のトリップならこの空も安心するひとつの要素となるのだろう。たとえ400年前の世界だとしても未来へはいつか繋がるのだ。
だがここはあくまで作り物の世界。これはどうやったって曲げられない事実だ。だからこの空だって電源を落としてしまえば途切れてしまうし、直接的にこの空が平成へ繋がっているわけでもない。
「……帰りたい?」
「…そんな、こと」
「迷惑だとか思ってるんならそれは違うよ?ちゃんは忍びよりも忍びらしいよ」
は?と佐助の顔を凝視する。忍びよりも忍びらしいとはどういうことだろうか。
「忍ぶのが得意とか、そういうこと?」
違う、と佐助は首を横に振る。
はますますよくわからなくなってなら何なのと首をかしげる。
「気持ちを忍ばせるのが得意って言いたいの。」
「私が嘘つきだって?」
「もー違うよ、悪口じゃないって」
けらけらと笑う佐助の横顔はひどく悲しそうだった。