第16章 雄英文化祭編
「おい」
低く、不機嫌な声が割り込んだ。
おもちの視線がそちらへ向く。
そこに立っていたのは、爆豪勝己だった。
腕を組み、鋭い目つきで廊下の生徒たちを睨みつけている。その顔には、明らかに苛立ちが浮かんでいた。
「いつまで群れてんだ。邪魔くせぇ」
「ば、爆豪くん……!」
飯田が注意するよりも早く、爆豪は人混みの中へ足を踏み入れた。
そして、飯田の背後にいるおもちへと手を伸ばす。
「行くぞ」
「え?」
彼女が反応するよりも先に、その手を取った。
大きな手が、彼女の指を包み込む。
そのまま、当然のように引き寄せられた。
「ちょ、ちょっと、勝己くん?」
「昼飯だろ。さっさと行くぞ」
「ええ、そうだけれど……」
あまりに自然な動きだった。
まるで、彼女を連れていくことなど最初から決まっていたかのように。
爆豪は彼女を自分の隣へ引き寄せると、立ちふさがる生徒たちを鋭く睨みつけた。
「散れ、モブども」
「ちょっと待ちたまえ、爆豪君!」
すかさず飯田の声が飛ぶ。
「とりあえず、知らない人を何でもかんでもモブと呼ぶのはやめたまえ!」
「うるせぇ、メガネ!」
「君はまったく……!」
いつものやり取りに、周囲から小さな笑い声が漏れる。
けれど、爆豪は気にする様子もなく、おもちの手を引いたままだった。
「ほら、行くぞ」
「……分かったわ」
彼女は一瞬だけ自分の手に視線を落とした。
握られた手。
迷いなく前を歩く背中。
そして、こちらを振り返りもしないくせに、自分の歩幅に合わせて速度を調整していること。
――本当に、分かりやすい人ね。
そんな感想が浮かんだものの、口には出さなかった。
一方、残されたA組の面々は、目の前の光景にそろってぽかんとしていた。
「……え?」
上鳴が最初に声を漏らした。
「今、爆豪が……?」
「おもちの手、引っ張ってったよな?」
切島も目を丸くしている。
「おう……。あいつ、あんなことする奴だったか?」
「いや、しないだろ。普通は」
瀬呂が即座に答えた。