第16章 雄英文化祭編
彼女が自分のそばにいることを、もっと当たり前にしたい。
彼女の笑顔を、これからも見ていたい。
そして、できることなら。
その笑顔を、自分だけに向けてほしい。
おもちは短くなった煙草を指先で挟み、携帯灰皿を取り出した。
火を確実に押し消し、蓋を閉める。
「……さて。そろそろ戻ろうか」
そう言って、フェンスから背中を離した瞬間だった。
不意に、手を取られた。
「えっ?」
振り返る間もなく引き寄せられ、気づけば爆豪の腕の中にいた。
厚い胸板に、顔が押し当てられる。
背中に回された腕が、彼女の身体をすっぽりと包み込んでいた。
「……勝己くん?」
突然のことに、おもちは目を瞬かせた。
抱きしめられている。
それも、かなりしっかりと。
普段の爆豪からは想像できないほど、まっすぐな愛情表現だった。
乱暴に見えるほど大きな手。
鍛え上げられた腕。
けれど、彼女を抱きしめる力は驚くほど優しかった。
痛くないように。
苦しくないように。
それでも、逃がすつもりはないと伝えるように。
「……どうかした?」
問いかけても、爆豪はすぐには答えなかった。
ただ、彼女の背中に回した腕に、ほんの少しだけ力を込める。
おもちは彼の胸元に頬を寄せたまま、困ったように目を細めた。
好意を寄せられていることには気づいていた。
あの夜の言葉も、視線も、最近の彼の態度も。
鈍感なつもりはない。
けれど、まさかここまでストレートに行動してくるとは思わなかった。
あの爆豪勝己が。
あの、少しでも気に入らないことがあればすぐに怒鳴り、誰に対しても遠慮のない男が。
今は何も言わず、自分を抱きしめている。
「……勝己くん?」
もう一度名前を呼ぶと、爆豪はようやく顔を動かした。
そして。
ふと、彼女の胸元に顔を埋めた。
「……っ!?」
おもちの身体が、びくりと跳ねる。
爆豪はまるでそこが落ち着く場所だとでも言うように、彼女の胸元へ頬を寄せた。
柔らかな胸の感触を確かめるように、遠慮なく身を預けている。
「ちょ、ちょっと……!」
さすがのおもちも、これには動揺した。
思わず身じろぐものの、爆豪の腕は緩まない。