第16章 雄英文化祭編
しかし、彼の視線は、先ほどから何度も彼女の手元へと向かっていた。
初めて触れる楽器を前にしても、おもちは戸惑うより先に、耳郎の説明を注意深く聞いていた。
指の位置、弦を押さえる強さ、ピックの角度。
一度教わったことを、驚くほど正確に再現する。
しかも、うまくいかなかった箇所があれば、自分で原因を考え、何度も繰り返して修正するのだ。
その姿勢は、彼女がこれまで積み重ねてきた経験を物語っていた。
「すごいね、おもちさん……!」
緑谷も感心したように声を上げた。
「教わったことをすぐに理解して、実際に動きに反映させている。しかも、弦を押さえる位置を微調整して、音の違いまで確認してる……!」
「デク、解説はいいから練習しろ」
爆豪が鋭く言った。
「は、はい!」
緑谷は慌てて自分の作業へ戻った。
その様子を見て、おもちはくすりと笑う。
「皆さん、本当に一生懸命ね」
「そりゃあ、やるからには成功させたいからな!」
上鳴が胸を張る。
「爆豪もあんなにやる気だし!」
「当たり前だ。中途半端な演奏なんざ、誰が聴いてもつまんねぇだろ」
爆豪はスティックを回しながら言い放った。
「やるからには、客席の連中全員の腹に響く音を叩き込む」
「うわ、出た。爆豪の本気モード」
瀬呂が呆れたように笑う。
「でも、実際そうだよね。せっかくみんなでやるんだから、最高のものにしたいし!」
耳郎は楽譜を広げ、全員に見えるように掲げた。
「特に、この間奏部分!」
そこには、今回のライブで最も力を入れたい箇所が記されていた。
「ここで爆豪のドラムを前面に出す。ほかの楽器は一度音を抑えて、ドラムソロで一気に引っ張るの」
「おう」
爆豪が短く返事をする。
「そこから、おもちのソロボーカルに繋ぐ。伴奏を最小限にして、歌声を思いっきり響かせるんだよ」
「私のソロ……?」
おもちが譜面を覗き込む。