第73章 告白しなかったせいで
勘違い。
私が、何を勘違いするというのか。
決まっている。
自分も脹相にとって特別なのだと。
自分が甘えてもいいのだと。
自分が隣にいていいのだと。
――そんなことを。
「……違う」
やっと、それだけが口から出た。
「え?」
「お前は、何も勘違いしていない」
「でも――」
「違うんだ」
脹相は私を見る。
けれど、そこから先の言葉が出てこない。
言えばいい。
今こそ。
「俺が好きなのは、お前だ」
そう言えばいい。
それだけで、この数日間を終わらせられる。
なのに、喉まで出かかった言葉が、止まる。
怖い。
もし言ってしまったら。
もし私が驚いたら。
もし今までの関係が変わったら。
それでも。
目の前で私が、自分から距離を取っている。
このまま何も言わなければ。
本当に私を失う。
「……」
脹相は、初めて。
告白しないことが、私を守ることではないのかもしれないと思った。
むしろ自分が怖がっているせいで。
私を傷つけている。
「……脹相?」
私は不安そうに彼を見る。
その瞬間。
脹相の中で、何かが大きく揺れた。
――もう、逃げる理由はない。
そう思った。
それでも。
「……今日は、もう休め」
結局、その夜も。
脹相は告白できなかった。
ただ一人になったあと。
誰もいない部屋で、拳を握りしめる。
「……俺は、何をしている」
告白するつもりだった。
もう決めたはずだった。
なのに。
私の「大丈夫だよ」という笑顔が頭から離れない。
あの笑顔の裏に。
「私はあなたの邪魔だから、離れるね」
という意味が隠れていたことを知ってしまった。
そして初めて脹相は思った。
自分が告白をためらっている時間の分だけ、私は脹相から離れていくのかもしれない。
その事実が今まで感じたどんな恐怖よりも、ずっと怖かった。