第7章 約束の結末
布団をかけてから、額に手を当てる。
「さっきよりマシか」
熱が下がったのを確認するだけ――
だったはずの手を俺は離すことが出来なかった。
「……無防備すぎんだよ」
あまりにも綺麗な寝顔に
気がついたら本音が零れていた。
ふと、視線がユキの唇へ向かった。
――先に奪われちまった。
一瞬で浮かんだその事実に
胸の奥がざわついた。
嫉妬なのか、悔しさなのか。
自分でも分からない黒い感情が腹の中を渦巻いた。
「……っ、ダッサ、俺」
小さく息を吐くと、自嘲気味に呟いた。
俺の手は自然とユキの頬を滑り、
その顔に引き寄せられた。
あと数ミリで唇に触れる――
ハッと思い浮かんだのは、
背中越しに感じたユキの涙だった。
「……っち」
俺は舌打ちをして、視線で空を泳ぐ。
……これじゃ俺も鳴と変わらねぇじゃねぇか。
けど――
ゆっくりユキに視線を戻して、
指先で軽く前髪を掻き分ける。
一瞬だけ迷う。
それでも――
ほんの一瞬。
触れるだけのキスを額に落とした。
「……今はこれで我慢しておいてやる」
誰に言ってるのかも分からないまま
小さく吐き出した。
ゆっくり体を起こすと、
もう一度だけその寝顔を見た。
「……ちゃんと治せよ」
聞こえるはずのない声でそう言って、
静かに部屋を後にした。
夢主side
扉の閉った音に、私は目を開けた。
「……っ」
さっきの感触が残る額に手を当てる。
寝たフリなんて、するつもりなかった。
重たくなった瞼を開ける体力がなかっただけなのに――
「……ばか」
小さく吐き出した。
指先に残る温もりがやけにリアルで、
心臓が大きく鳴る。
……あんな御幸知らない。
顔も、声も、触れ方も――
全部が初めてだった。
さっきの一瞬が頭から離れない。
「……もう、無理」
そう言って私は頭から布団を被った。
ぎゅっと目を閉じる。
でも――
全然寝れる気がしない。
……なんなの、一体……
静かな部屋に時計の秒針の音がとてもうるさく感じる。
何が変わったのか分からない。
でも、確実に――
私たちの関係はまた一つ近づいた。
そんな気がした。