第5章 約束を乱すもの
鳴side
「え!?青道、また女のマネージャー増えたの?」
青道の偵察に行っていた部員から話を聞いて驚いた。
それもキャッチャー経験あるって……
小学生の頃、一也のいたチームにいた子を思い出した。
「まさか、ね」
戦ったのは1度だけだけど、とても衝撃的だった。
あんな風に球を“受ける”キャッチャーを初めて見たから。
―――
相手チームのピッチャーは上級生だった。
今思い出しても球威はあるけど、かなりコントロールにムラのある選手だった。
けど、そんな人の球を一度も取りこぼす事なく
終始笑顔でリードしていたのは女の子だった。
俺はその笑顔に取りつかれたかのように見入ってしまった。
試合後に話そうと向かったが先客がいた。
彼女が防具を外しながら話していたのは、
今日の試合で初めて俺の球を打ち返したメガネの野郎だった。
「小金井さんの球、本当に取りづらいのによく文句言わずに取るよな」
「んー、今日はまだマシだったし、本人も分かってるみたいだから、あえて言わなくてもいいかなって。それより向こうのピッチャーの子も凄かったね」
俺の事、凄いって……
試合中に相手を意識してたのが
自分だけじゃなかったことが嬉しくなった。
「つーか、今日俺キャッチャーとしての出番なかったし!次の試合は俺がキャッチャーな!」
「それは監督に――」
「なぁ!お前、俺の球受けてよ!」
俺は話終わるのを待たずに、声をかけていた。
「え、ヤダよ」
そう答えたのは、
どこまでも気に食わないメガネの野郎だった。
「違ぇって!そっちの……」
「私?」
「そう!お前!」
邪魔な視線が消えて言葉を続ける。
「俺の球受けてよ!」
「えっ?」
「今日の試合見てて、俺の球受けて欲しくなった」
「いいよ」
彼女はあっけらかんとそう答えた。
それに対してメガネの野郎は怒ってるみたいだった。
「は?お前何言ってんの?」
「え?今からキャッチボールしようって事でしょ?私、前原ユキ。こっちは御幸一也、君は?」
「成宮鳴、鳴でいいよ」
「よろしくね鳴!」
軽く挨拶をした後、俺は自分のチームに黙って離れた事がバレて、キャッチボールも出来ずに連れて帰られた。
しかし――
翌年の試合から彼女の姿を見ることはなくなった。
一也に聞いても「知らねえ」の一点張りだった。