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天狐あやかし秘譚

第58章 月下氷人(げっかひょうじん)


☆☆☆
「・・・やっと見つけたよ・・・こんなところにいたの?」

あちこち探し回った挙げ句、やっと見つけた。
ダリがいたのは、ホテルの敷地の裏手にある小山の上の神社の境内、正確に言えば、神社の境内に植えられた松の木の枝の上だった。

神社は氏神でも祀っているものなのだろう。宮司さんとかがいるような立派なものではなく、境内こそそこそこの広さがあるものの、こじんまりとした社殿があるだけだった。

真冬の夜、空気はツンと澄んでいた。
境内には街灯などはなかったが、空に明るい月が昇っており、ダリと私を青く照らしていた。

枝に腰掛け幹に背を預けた狐神モードのダリは、空に目を向けていた。そのきれいな瞳に、月がまあるく落ちている。それは、本当に、一幅の絵のようで、見惚れそうなほど、美しい情景だった。

「土御門だな・・・?」

私の声に答えて、木の枝の上から私の方を見やる。
ご明察・・・私は、ダリがいなくなったことに気づいて、内線で土御門に連絡を取った。彼が簡便な占術でダリの居場所を探してくれたのだ。

少しの、沈黙。

なんか、距離が・・・遠いよ。
地面に立つ私と、木の枝に腰を掛け天を見つめるあなた。
とても、とても距離が遠い。

やっぱり、怒っているの?

「ダリ・・・」

どうしよう、あそこまで、私、登っていけるかな。
木登りをしようと本気で思いかけた時、ふわりとダリが飛び降りて来てくれた。

今度は、私の直ぐ側に。
まっすぐ顔を見つめてくる。
その瞳から目が逸らせなかった。

「あの・・・えっと・・・」
言葉が出てこない。

誰もいない夜の神社の境内。
青い月明かりに満たされた神聖な空間に、あなたがいる。
現実を超えた非現実に、私は息を呑む。

「すまなかった・・・」
一言だけ。思いがこもっている言葉だと感じた。

「ごめんなさい」
ダリの優しい言葉に、私の心のわだかまりがほろりと解ける。
言葉が自然と溢れる。ダリの胸に、コン、とおでこをぶつけるようにもたれかかった。
青い月明かりが、二人の影を地面に落とした。

泣くつもりなんてなかったのに、涙まで、零れてしまう。

「綾音、まだ、どこか痛むのか?」
ダリの手がそっと肩にかかる。とても暖かい手。
もちろん、身体のどこかが痛むわけではない。
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