第40章 一意専心(いちいせんしん)
「すいません。少ししたら、返しますから・・・必ず」
そのまま、老婆が守ろうとした木の方に進む。
ああ・・・やっぱり・・・。
「ふっざっけんんあああ!!!」
バリバリと音を立て、『私』の木の結界を男が内側から破った。
「あら・・・」
少し驚いた。簡易に巡らせたとて、人の子の身でありながら、木霊の結界を破るとは。少し、男の力の目測を誤ったようだった。
「きっさま!瀬良を返せ!!」
何をさっきから、この男は感情的になっているのか?『私』は返すと言ったのに。ただ・・・。ふと、木の根元を見やり、思う。
すぐに返すわけには行かなくなった。
ああ・・・さっきの老婆か。あれを探さねばならない。
『私』は下から上に手掌を閃かせ、また、歌った。
『はやちかぜ吹越して舞えもみじ葉よ』
手掌の起こす小さい風がまたたくまに大きくなり、周囲の枯れ葉を舞い上がらせる。その風に男が意気を削がれている間に、『私』は風に乗り、天に舞う。
確か・・・老婆は、あちらに行った・・・。
人の子の身体は重いが、風で運べないほどではない。そのまま宙を舞い、『私』は老婆のもとに急いだ。
風の中で土御門という名の男が、私の体内にいる女の名を呼んでいる。大声で、「瀬良!瀬良!」と・・・。その声が身体に響き、腹がまたずきんと疼いた。