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天狐あやかし秘譚

第19章 進退両難(しんたいりょうなん)


瀬良によると、あれは『女怪』という化け物で、恨みを持って死んだ女性がなる妖怪とのことだ。特に男性に騙されたり、傷つけられた女性が自ら命を断つと女怪になってしまう事があるという。

警察署で赤城という刑事が言っていたことを思い出す。

『彼女らは自殺の兆候こそなかったが、ある人は人に騙され、ある人は彼氏に振られ、また別の人は出世競争に負け、と何かしら人生のつらい事柄に直面していた。その後に死んでる。』

『例えば、田島香澄という女性が亡くなったのは、結婚詐欺にあって数百万の借金を負った直後でした。友人や家族からは『家族とも話して借金の返済の目処も立っていた。死ぬはずがない』と言われていたんです。ところが、ある日、唐突に自宅近くのマンションの屋上から身を投げて死んだ。』

つらい目にあった女性が死んで女怪になる・・・。
私も他人事ではない。騙されて、お金をとられて、借金まで背負う羽目になって・・・。私だって女怪になってもおかしくなかった。

じゃあ、彼女たちと私は何が違ったのだろう。

瀬良が言うには、女怪が発生すると、同じような身の上の者を引き寄せ、死なせようとするのだという。女怪の誘惑に負けて死んだものは、やはり女怪になる。
そうして、どんどんその数を増やすのだそうだ。

だとすると、私と女怪たちの違いは、たまたま私が出会ったのがダリであり、彼女らは女怪に出会ってしまった、という、偶然に過ぎないのかもしれない。

そして、一度死して女怪になってしまうと、通常の霊体に戻ることはないのだという。彼女らは人が死して行く世界、常世には行けない。妖怪として調伏、つまりは消滅させるほかないのだそうだ。

生きている時にひどい目にあって、死んだら消滅するしかない・・・。
そんなの、酷すぎる。

そんな悪夢の連鎖が起きないようにするには、今発生している女怪を全て調伏するしかないのだ。そのために、土御門とダリはあの結界の中に入っていった。

ダリ・・・お願い。これ以上、悲しい女怪を増やさないようにして。
そして、まだ女怪になりきっていない、河西さんを助けて・・・。

結界の中にいるダリに向けて、私は胸の内で祈っていた。
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