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天狐あやかし秘譚

第90章 生離死絶(せいりしぜつ)


☆☆☆
ビシッ!

十畳ほどの暗い和室の中。前触れもなく、空間に亀裂が入り、そこから転がり出るように緋紅が、そしてシラクモと、シラクモに抱えられるようにして麻衣が現れた。

麻衣は鬼道の瘴気に当てられ、顔色が悪く、熱病に浮かされたように喘いでいた。
「シラクモ・・・その子を医療室へ。それから、供物を持ってこさせてくれ」

汗をびっしりとかき、小さく喘ぐ麻衣を横抱きにしたまま、白髪の少年、シラクモは一礼して別室に下がっていく。

右手から血が止まらぬまま、ふらふらと一段高くなった次の間に移動する。そこで糸が切れたように肘付き椅子に座り込んだ。

唇をもう一度噛みしめる。

ー僕が・・・っ!この僕が!

緋紅にとって大和の民に背を向けて『敗走』するなど、あってはならないことだった。ましてや相手の呪法に手も足も出ず、無様に見下されるなど!

ーあの・・・男!

土御門の顔が浮かぶ。次いで、天乙貴人を宿したあの瀬良とかいう陰陽師の顔。心の中にどす黒い怨嗟の炎が燃え上がるのを感じる。

最初は綾音を攫うことで、死返玉とその適合者を簡単に手に入れられると考えていた。しかし、結果は綾音を性奴隷にすることも叶わず、死返玉はまだ手元にない。適合者である麻衣は瀕死となってしまっている・・・。

そもそも、道返玉の適合者でもない麻衣に鬼道を使わせるのは最後の手段として用意してあったに過ぎない。本来使うことは想定していなかったのだ。死返玉を使わせる前に死なれては元も子もないからだ。

何もかもが思うようにいかないというストレスが緋紅を更に苛つかせた。
ズキンズキンと痛み続ける右腕もだ。

ー早く・・・供物はまだか!?

イラつきが頂点に達しそうになった時、衾の向こうから声があがる。

「お館様・・・供物にございます」
「早くしろ!」
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