第90章 生離死絶(せいりしぜつ)
その朗々とした声に反応し、瀬良の全身に施された呪紋が青く発光する。ふわりと彼女の身体が浮き上がり、浮き上がるほどに青い光は次第に力強く、そして白色へと変わっていく。
ーなんだ!?あれは・・・っ!
これまでの部下の報告にもない、自分の知識にもない。目の前で起こっていることに緋紅の理解は追いついていなかった。
・・・天乙貴人!(てんいつきじん)・・・
土御門が最後の呪言を唱えた。
ー天乙貴人・・・!?
それが土御門の有している十二天将のひとつであることも想像に固くない。つまりは式神だ。
ーなのに、あの人間はなんだ?
人に、憑依する・・・式神だとでもいうのか!?
浮き上がった瀬良が両の手を広げると、白い光が衣のようにふわふわとまといつく。瀬良の髪の毛はより長く伸び、それは銀色に染まった。
その姿はまるで西洋のフレスコ画にある天使そのものだった。
緋紅は自らの剣に宿った『五段目』の力に絶対の自信を持っていた。例え相手が神であっても討ち滅ぼす事ができるほどの力であると考えていた。なので、この力さえ振るえば・・・、そう考えたのも無理はなかった。
「なんだかわからないけど、僕の敵じゃないね!全てを打ち砕けっ!・・・八握剣!」
緋紅は力任せに両の手で、その太刀を袈裟懸けに打ち払う。それにより、八握剣に宿った神力全てが前方・・・土御門と瀬良、そしてその後ろにある廃ホテルに向けて解放されるはず、であった。
しかし・・・。
「な!?」
緋紅が目を見開く。彼を驚かせたのは、あまりにも予想と違う事が起こったからだった。
剣は沈黙し、振るった斬撃は虚しく空を切った。
「無駄なんよ・・・天乙貴人はな、その領域内の全ての呪的現象を完全に支配下に置く天将や・・・それは、あんさんの持っている神宝も例外やない。」
ズン、と身体が重くなった。
八握剣の効果が消えたのだ。その力で支えられていた膂力が通常に戻り、そして、左前の術で穿たれた傷が再び血を吹き、ズキンズキンと痛みだす。
「クソ・・・」
あまりの痛みに緋紅はよろめき、膝をつきそうになった。そうしなかったのは、彼のプライドが許さなかったからに他ならない。
「さあ・・・神宝全て渡して、お縄についてもらおうか・・・緋紅・・・やったか?おまはん名前・・・ん?」