第3章 はじめましての訓練
扉の向こうで気配が動いた。
コン、コン。
「ちゃん、大丈夫? 入っていい?」
その声は――ホークス。
返事をする前に扉が静かに開く。
制服でもスーツでもない、部屋着のまま。
髪が少し寝癖で跳ねている。
どうやら、の声に気づいて飛んできたらしい。
「ごめんね、驚かせた。入るよ?」
彼はゆっくり近づき、ベッドの横にしゃがんだ。
は泣きながら首を振る。
「……ごめ……なさい……」
「謝らなくていいよ。泣いていいんだよ。怖かったろ?」
ホークスの声は、夜の空気を温めるように優しい。
は堰を切ったように泣きだした。
「ままが……ぱぱが……!
たすけられなかった……わたし、治せなかったの……っ」
声が震えすぎて、言葉にならない。
ただ苦しそうに呼吸しながら、胸元を掴む。
ホークスは驚いたり、焦ったりしない。
そっと背中を支え、ゆっくり息を合わせるように話しかけた。
「ちゃん。…聞いて」
彼の声が、涙の中でもちゃんと届く。
「君が悪いんじゃない。あの日、君はたった5歳だった。
君が壊れちゃうくらい頑張ってたの、オレ知ってるよ」
は涙で濡れた顔を上げる。
「……でも、治せたかもしれない……」
「それは“今”の君だから思えることだよ。
あの日の君は、その時できる最大限をやったんだ」
ホークスはの両手を包み込むように握る。
「君が泣くほど、君の心は優しい。
その優しさが、今はまだ痛いだけなんだ」
声が揺れていた。
の痛みを、本気で心配している震え。
「…だから…ひとりで抱えなくていい。
夜が怖いときは呼んで。
君を守るって決めてるんだ、オレ」
その言い方があまりに真っ直ぐで、
の胸がきゅっと縮む。
「……ホークス……」
「うん?」
「こわい……の……」
次の瞬間、彼は何も言わずにを抱きしめた。