第9章 素直に
「早いな」
最悪だ。
外で、こんな…。
着替え何か持ってないし、どうしたらいいんだ。
「貴夜…」
野木はまた俺に口づけようと顔を近づけた。
「やめろ…!」
野木を押し返し、思いっきり睨む。
「俺は、お前が嫌いだ。もう、近づくな!」
そう言って野木の腕を抜け出し、全力で走り家へと向かった。
貴夜が去ってから数分後。
野木は路地を出て、近くの壁に寄りかかった。
「隼人先輩!」
声のした方を向くと、杉山が手を振って野木に近づく。
「もう、何処行ってたんですか、あんまりうろうろしないでくださいよ。あ、そんなことより隼人先輩、これから……」
「晴」
杉山の言葉を遮り名前を呼ぶ。
野木の真剣な表情に、つられて杉山もそうなった。
「お前、貴夜に何言った」
杉山は表情も動かさず淡々と言葉を紡ぐ。
「別に…。ただ、隼人先輩は自分のだから近づくなとは言いましたよ」
野木はため息をつき、歩き出す。
「今日はもう帰るから、お前も帰れ。それから、俺は誰のものでもねぇよ」
杉山は野木の後ろ姿を見つめ見送った後、自分の家へと向かった。