第2章 軋轢
あれから1年以上が過ぎ、私は高2になった。
あの後すぐ五条先輩と夏油先輩の2人で行った任務は失敗に終わり、一度死にかけた五条先輩に泣きついたこともあった。
先輩2人は、特級呪術師になった。
そして今、五条先輩は名実共に最強になった。
結局あれから先輩とは何もなくて、あの日の出来事は夢なんじゃないかと思っている。
七海くんと灰原くんが2人で任務に出たので、1人で机に向かい自習をしながらそんなことを考える。
私はみんなを守れる程強くなれるのだろうか。
反転術式だけが上達した自分の手を見つめた。
硝子先輩に付きっきりで教えてもらい、他人に使えるまでになった。
元々私は反転術式に長けており、この反転術式で呪霊を祓っている。
それでも、五条先輩の様な威力もないし、放つことも出来ない。
強く、なりたい…。
その時、高専内が騒がしくなる。
急いでそちらに向かい事態を目の当たりにすると、身体が固まって動けなくなった。
いつも笑顔で場を明るくしてくれる彼の面影はなかった。
上半身だけの灰原雄が横たわっていた。
下半身が繋がっていたであろう場所は、隠された布を赤く染めている。
「な、七海くん…どうして…。」
彼に聞いたってしょうがないことはわかっている。
彼が一番ショックを受けているのはわかっている。
2人でも大丈夫な任務だったはずなのに…。
俯いたまま何も答えない七海くんと俯いたままの夏油先輩を無視して、動くことのない灰原くんに近付き、手を翳して私の呪力で包み込む。
「緋那ちゃんやめな、意味ないよ。」
夏油先輩が私にやめるよう声をかけても、溢れた涙で灰原くんに掛かった布を濡らしても、反転術式は止めなかった。
助けたい…もう誰かが死ぬのは嫌だ。
母が亡くなった時も私は傍にはいなくて、冷たくなった母だったものに縋っていた。
「もういいから……もうやめてくれ…。」
夏油先輩に後ろから抱きしめられるように腕を押さえられ、灰原くんに呪力を流し込むことは叶わなくなった。
力が抜けて夏油先輩に身体を預けるように体重をかけ、灰原くんを見つめながら涙を流す。