第4章 玉折
次の年の春、私は高3になり悟さんとの関係も良好で、ある一点を除いては幸せに過ごしている。
新宿でたばこを吸おうとする硝子先輩から距離を取って他人のフリをしようとしていたら、火いるかいと声をかけられていた。
ライターを持って記憶と変わらない笑顔をしているその人物に驚き、目を見開いたまま動けなくなる。
あの日私を気絶させていなくなってしまったあの人…。
両親を呪殺したとも聞いた。
彼の両親は非術師だった。
「緋那ちゃんもいたんだね。あの時はごめんね、痛かったろ?」
あまりにも自然に話しかけてくる夏油先輩に驚いたまま、何も答えることは出来なかった。
硝子先輩はいつも通り彼に答えている。
いや、いつも通りではないかもしれない。
手摺りに腰掛けた硝子先輩の隣に夏油先輩も腰掛け、冤罪だったりするのかという硝子先輩の問いかけにないと答える。
「重ねて一応……なんで?」
「術師だけの世界を作るんだ。」
意味わかんねーと笑う硝子先輩に、子供ではないからなんでもかんでも理解して欲しいとは思わないと言う夏油先輩。
「どうせ誰も理解してくれないって腐るのも、それなりに子供だと思うけど?あ、五条?」
硝子先輩も、こうなる前に何か少しでも相談して欲しかったのだろう。
親友の悟さんに言えないこともたくさんあっただろう。
それならば、硝子先輩にでも相談すればよかったのに。
硝子先輩は電話相手であろう悟さんに夏油先輩のことを報告する。
このまま私は何も話せないままなのか…あの時も結局止めることはできなかった。
「夏油先輩、私は悟さんと同じ方向を向いて隣で歩いていって欲しいと思ってます。…悟さんに背を向けないでください…。」
「君は結局、自分の本心ではなく、悟を選ぶのだろう?……悟悟ってうるさいよ。私なら、君の望む世界を作れるのに。」
そのまま手を引かれ、硝子先輩から離れていってしまう。
どうして夏油先輩はそんなことを言うの?
「あ、五条、緋那連れて行かれた。」
硝子先輩の声はそれ以上聞こえなくなってしまった。