第2章 三十六計逃げるに如かず。
部屋のトルソーには明日の為に誂えたノイシュの瞳と同じラベンダー色の豪奢なドレスが着せてある。
それを見ているとミオスがそちらを向いた。
「あいつの瞳の色のドレスなんかもう要らないですよね。お嬢様?」
尋ねているが、それは質問ではない。
現にミオスは私の言葉を待たずにドレスを引き裂いていく。
でも、私、アンネレの胸は痛まない。
ドレスがゴミクズになっていくと共に覚悟が決まる―――。
「荷物を纏めるのを手伝って」
「いつまでも、俺はお嬢様と共に」
「もうお嬢様じゃなくなるわ。アンネレで良い」
私の言葉にミオスの瞳が輝く。
「アンネレ」
「ミオス」
呼び合って、私はミオスの手を取って甲に口付けた。
「お嬢様じゃなくなっても、一緒に来てくれる?」
問えばミオスは又すごい表情になる。
それが怖い、……でも逆にこんな状況だからこそ信じられるのはミオスだけなのだ。
「勿論!アンネレ、……愛しています」
ミオスも私の手の甲に口付けた。
―――私達は夜逃げをして、幸せになるわ。
ああでもミオス、そのすごい顔やめて、やっぱり怖いわ。