第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
?「させるか!」
相手選手も、負けまいと必死で腕を伸ばしていた。
でもその前に、その長い腕の先にある手が、ボールをしっかりと捕らえたんだ。
「貰った!!」
リバウンド争いに勝った者は、その中の誰よりも高く跳んだことを証明しつつ。
ボールの主導権を獲得したことを、宣言するかのように声を上げた。
私はその声が、自分の仲間のものであると知ると。
ボールが今この時より、“引き止め奪うもの”から、“守り進めるもの”に変わったことを確信した。
一方、リバウンドへ向かった選手たちが、再びコートへと降り立ったとき。
うちのCである詩織が、ゴール下の勝者となっていた。
そしてその手の中には、空中戦における詩織の勝利を表すかのように。
ボールがしっかりと収まっていた。
「でもこのままじゃ、どのみちまた取られてしまう」。
そう思った瞬間、私は地面を蹴った。
「天!」
『こっちよこせ!』
“懇願”とも取れる、私の名を呼ぶ詩織の声に急かされるまま。
私は詩織の視界に自ら飛び込みに行く。
すると、私の姿を認識した詩織が、すかさずボールを回して来た。
私は、詩織の方から飛んできたボールを手に取り、その流れで一気に敵陣までドリブルで突っ切ろうとした。
だけど…
『あれ…』
?「ここで止める!」
詩織の手を飛び出たボールの勢いを殺さないように、と。
それまでほとんど、掌の皮だけで支えていたも同然だったのに。
相手陣地のゴールに向かおうと踵を返したその先には、既に相手選手の1人が私のマークについていた。
足止めされたせいで、せっかくのボールの勢いが。
完全に死んじまったよ。