第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
ディフェンスへと向かってくる途中だった相手選手は、私に向けた視線を容易くボールに奪われていた。
よりによって、スティールを成し遂げた私がボールを放るから。
ボールを目で追うことは、それほど難しいことではなかっただろう。
?「あ!!」
?「向こうには誰も…シュートか?!」
唐突に放たれたボールを追って、自陣のゴールの方に振り返った相手選手は。
私が放ったボールが見当違いな方向すぎて、シュートだと勘違いしたようだ。
そりゃ勘違いもするよな。
“8秒ルール”って縛りがある中で、選手は8秒以内にフロントコート側にボールを持って行かなければならない。
なのに、ドリブルで持って行っても良かったと思われるボールを、私はバックコート(自チームの陣地)内に止まってボールだけを進めた。
こうなった時に、考えられる作戦は2つ。
フロントコート側にいる味方に、8秒以内にパスを回す作戦。
もしくは、規格外のスリーポイントシュートを狙う作戦。
そのどちらかだ。
その両者を天秤にかけ、相手選手は戦況から後者を選んだのだろう。
“パスを回せる味方が、フロントコート側にいるはずない”って戦況からな。
けれど違う、私は確実にパスを出した。
単に、相手が見落としてしまっていただけだ。
ディフェンスが均等に行き渡った気になっていたんだろうけど。
直前、私にボールをスティールされた時。
相手選手たちは、誰となく一様に“焦り”を見せたんだ。
試合に大きく影響する、そんな負の感情を。
その隙だよ、大事なのは。
その“焦り”が影響となるのなら、その後のプレイに利用しない手はない。