第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
史奈の“オフェンス放棄宣言”で、この試合は実質4-4になったと思っていいんだろう。
これでプラスになることは、正直言ってあまりない。
それでも、さっきみたいに“スコアラーのファウルトラブル”がチラつくことはもうない。
だからそれだけで、もう万々歳だ。
史奈を抑える作戦は、相手チームが見出した“最後の可能性”だったのかもしれない。
なかなか点が入らなくなった時、私たちの士気が落ちた一瞬を見計らって。
一気に点を稼ごうとしたのかもしれない。
予想に過ぎないけどな?
それを未然に防いだのは、冷静さを取り戻した史奈じゃない。
ましてや、私でもない。
キャプテンだ。
「一旦冷静になって考えてみるんだ」と、残り時間も少なく、緊張状態だった私たちに。
「それでもいいから考えろ」と…
そして、点を稼ぐことしか考えていなかった史奈に、それ以外の選択肢を与えた。
「点を稼げなくても文句は言わない」と言うことで、「スコアラーだけどディフェンダーになる」という作戦を史奈自身に選ばせた。
私が史奈に直接、「点はいいからディフェンス回れ!」って言っても良かったのかも知れない。
だけど、それだと多分、上手くいかなかったんだろうな。
そんな雑で、その場凌ぎのような言葉では…
きっと史奈の心は動かない。
“キャプテンの言葉”だから意味があった。
「今、点を稼げる状況じゃないなら、別にそれで構わない。出来ることをすれば良い」っていうのは、ある種魔法のような言葉だった。
憤りを感じていた史奈を救った。
まさに魔法だった。
その魔法は…“説得力”?
もしくは、“信頼性”。
それは、まんまキャプテンのことだ。
そういうパワーを持った言葉が、キャプテンにはよく似合う。
『あぁ、分かった。』
だから私もその後を追う。
それが、キャプテンを信頼した史奈に対する、私からの最大級の敬意だと思うから。
『しっかり決めてやるから待っとけ!』