第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
“囮”ってのは、私のことだ。
簡単に言えば、“相手チームに、味方間でパスをするように仕向ける役”だ。
ここでの本命は紗恵の方。
こいつにボールを進めてもらうために、私は“囮”になった。
直前まで、自分達のものだったボールは。
今はうちのSF(スモールフォワード)が手にしている。
?「どっから湧いた…?!」
私の真後ろに紗恵がいたこと、気が付かなかっただろ?
確かに真正面から見るだけなら、私が楯になって見えるわけがない。
それか紗恵が、何かしたのだろうか?
例えば、私の動きを完全に真似て。
2人の輪郭を完全に重ね合わせていた、とか…
どうしたって私からは見えねぇーから、実際はどうか分かんねぇーけど。
どのみち、パスでボールを繋ごうとした時。
そこに割り込むように攻められたら、ボールを守ることもできない。
道中のボールは、凄ぇ無防備だからな。
「速攻!!」
「はいよ〜!」
フロントコート側から聞こえてきた、キャプテンの声に急かされるように。
紗恵はドリブルで走り出した。
?「待て!行かせるかよ!!」
相手選手は、もちろん紗恵を止めに行く。
だけどそうはさせない。
『あんたこそ待ちなよ…!』
紗恵がフロントコート側に走り出すのと同時に、私も動き出す。
目の前の選手の前に、スライドするように割り込み、紗恵を追いかけようとするその進路を妨害する。
『元から私の相手する気だったんだろ?
だったらここに残れよ』
「チッ…!」
タイムアウト前のこともあって。
相手チームはゴールを決めるとしたら、私だとばかり思っていたんだろう。
“ついさっきまでは”…
だけど今度は違う。
この作戦の決行時から、私はずっと“囮”のままだ。
『紗恵!そのまま突っ走れ!!』
?「くっ…!やられた!!」
今度は紗恵が、コートを駆け抜ける番だ。