第8章 夕食の問答
今日も情報を収集しながら外来患者を診て片付けをして居住地に戻る。
クソみたいな日々だとアレックスはバイクを停めながら毒づいた。
『食事の用意をするから先に汗を流すといい』
当然のように己のバイクから降りた夜梟が意気揚々と(アレックスにはそう見えた)自分の部屋に入っていく。
合鍵を持たせるのではなかった。いや、無理矢理入ろうとするから物理を含む問答の末にアレックスが譲歩して持たせたのだった。
それからアレックスの家は夜梟の家にもなってしまった。
野狗子を殺すためだけに生きてきたアレックスと違い、そのアレックスと人として生きていくと決めた夜梟はアレックスに支配されていた時が嘘のように我が道を進んでいた。
もしかしたら未来のアレックスに先導されている可能性もあるが、その仮定は我ながらあまりにも不快で理解できないため忘れることにした。
ともかくジュリーからのルームシェアの提案を丁重に断った夜梟はトゥリから学んだ家事の知識をフル活用して夕食を作っている。
未来では全てコンピューターで管理されていて人はボタンを押すだけでよかったとは彼女の弁で、それよりはまあマシなのだろうと風呂上がりのアレックスはテーブルに並ぶ料理を見下ろした。
野菜と漢方の老火湯、清蒸魚、脆皮焼肉、豆腐花には甘さ控えめの胡麻ソース。
定番なだけに外れがない。夜梟が好みそうな、そしてアレックスの思考にも近いラインナップだ。
食べないと面倒だし、アレックスも食事は必要だ。
『お酒はどうする?』
「いらん」
食後のコーヒーは欲しいが食事よりは拘りがあるので自分で淹れたい。リサがいればと考えかけて止めた。
『さあ、冷めない内に召し上がれ』