第30章 裏切り
少し瞼を閉じた眼で、顔を近付けてくる蜂楽。
「俺はもう、揺らがないよ。」
“キスされる”
反射的にキュッと眼を瞑った。
「ちゅ♡」
「……ん?」
唇に触れたのは唇じゃなく、横に並んだ二本の指。
唇を模したその指でされた、フェイクのキス。
「にゃっは!引っかかった引っかかった♪」
「もーお。廻ー。」
明るく笑う、大好きな人。
前言撤回。
やっぱり……出発前に逢えて良かった。
「キス顔、ゴチ♡」
ニヤッと笑い眼を細められて、顔が火照る。
出会った頃の胸の高鳴りが、この瞬間に蘇る。
「コレで今日は、だいじょーぶ!」
キュッとハグされれば、ココが真っ昼間の駅前広場だってことも忘れちゃう。
でも、もうすぐ……行かなければならない。
「……夢ちゃん痩せた?」
「誰のせいで食べれなかったと思ってんの?」
「ごめん。そんじゃ今夜からたくさん食べてよ。いつも通り、俺ん家でさ♪」
「……考えとく。」
蜂楽の背中に腕を回した。
こうやって優しく触れ合うの、久しぶりだ。
蜂楽の胸に耳が当たる。
トクントクン……と速いテンポの振動。
心地良い体温の温かさと、愛おしいにおい。
初めてしたハグの記憶と、重なる。