第30章 裏切り
「これを渡すために、駅に来てくれたの?」
「……うん。今日の“お守り”ね。」
「そう。ありがとね。」
「続き見て?」
「?」
「次のページ。」
自分が最後に描いたページを開いたはずなのに、次をめくるよう促される。
不思議に思いながら、一枚めくった。
「……え、これ……!」
ラフに描かれた自分の顔と、ヘタクソな字の日付。
ふんわり笑った私は前のページまでの蜂楽と同じに、そこで“生きる”。
「今日、帰ったらさ。この顔のホンモノ見せてよ。」
蜂楽は、白い歯を見せてニカッと笑う。
やっと逢えた、私が大好きな表情(かお)。
好きな人が自分を描いてくれるって、こんなに幸せな気持ちになるんだ。
10月末の少し冷たい指先が、温かく慣れた手を欲して恋しくなる。
「……サプライズ。私が先に、しようと思ってたのに。」
計画倒れしかけた、パイナップルケーキ。
私はまだ、渡す気でいるからね。
「それにコレ、美人すぎでしょ?全然……似てないじゃん。」
嬉しいに決まってる。
私と蜂楽が、このクロッキー帳の中で共生してる。
私も、あなたの喜ぶ顔を早く描きたいよ。
“一日一顔”の……二冊目に。
蜂楽は階段から立ち上がって、私の頭を撫でた。
この短期間で身長伸びた?って思うくらい、久々に感じる身長差にキュンとする。