第4章 つよがり いいわけ あやうい子
「いいだろ。」
後ろから腕が回り私の体を包む。背中にぴたりとくっつく体はいつの間にか下着を履いていた。
「起きたの?」
「腕の中が寒くなったから起きた。」
夜久の指が私の腕をなぞりペットボトルを奪う。
「柄にもないことしていい?」
問いかけられた言葉に頷くと、夜久は乱れたシーツをベッドから剥ぎ取ってくるりと私の体に巻き付ける。そして床に片膝をつくと、指輪のはめられた手を取り指輪の上から口付けた。
「いろんなもんがごちゃごちゃで、本当は1番に夏乃に伝えなきゃならないのに遅くなった。
結婚、しない?」
ウエディング・ドレスの真似事のシーツ
お互い寝起きでぐしゃぐしゃに乱れた髪の毛
化粧なんて落とす間もなかったから、汗や涙でどろどろ
それでも涙が溢れるのは、夜久の言葉が嬉しくて幸せだから。
ぼろぼろと涙を溢す私に苦笑しながら、夜久は立ち上がると私の体を強く抱きしめる。
「正直、俺はまだバレーがしたい。でもさ、現役でいられるのはあと数年だってわかってるんだ。…俺のワガママなんだけどさ、選手って居場所がなくなったあと、夏乃が俺の居場所であってほしいなって。」
1人でも大丈夫だろ。
そう言われ続けてきた私の隣を居場所にしたいと言ってくれる夜久の気持ちが嬉しくて涙が止まらない。
何も言えずに涙を溢す私から少しだけ体を離しながらぽろぽろと溢れる涙に口付けると、額を軽く合わせにまりと笑みを向ける。
「返事は?」
「………強い女だから好きなんじゃなかったの。」
本当に良くないってわかってる。この天邪鬼な性格を直したいけれど、ずっとこれできてしまったんだから今更直すことは難しい…
照れを隠すように眉間に皺を寄せながら視線を向ければ突き出した唇に柔らかな唇が重なった。
「言ったじゃん。強い夏乃を守りたいって。強くて最高に格好良い、それでいて弱音が吐けなくて苦しむ夏乃を隣で支えたいんだよ。」
甘やかすように頬を掌で包まれ夜久の方を向かされる。駄目押しのように首を傾げながら問いかけられれば降参。尖らせた唇の端が緩んでいった。